点数アップが学校教育の目的だと勘違いすると、子どもにつまずいたところを繰り返し復習するよう「命令」してしまう。本来なら子ども自身が「ここはよく理解できていないからもう一度勉強しておこう」と判断し、必要に応じて復習すべきにもかかわらずだ。

 学力向上が目的化すると、「勉強時間を増やそう」という勘違いが生まれる。OECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査で、フィンランドに大きく差をつけられたとき、日本の学校は宿題を増やして挽回した。しかし当のフィンランドでは宿題は多くないし、放課後の塾通いもない。子どもの主体性にまかせ、少ない学習時間で結果を出している。

 子どもの自律と学力向上を両立させるキーワードは、「心理的安全性」と「メタ認知能力」だ。これらをもとに、いまいちど教育の本質に立ち返ってみよう。

【必読ポイント!】
◆キーワードその1「心理的安全性」
◇過剰なストレスは不適切行動を引き起こす

「心理的安全性」とは、文字通り「心理的に安全な状態」を意味する。その反対は「心理的危険」だ。脳はある程度のストレスを許容できるようになっているが、ストレスが許容量を上回ると扁桃体が過剰活性を起こし、脳内に「緊急事態宣言」が発令される。この状態を「心理的危険状態」という。

 心理的危険状態になると、人は戦闘モードに入るか逃走モードに入る。すると体は危険回避のため、必要な臓器に血流を集中しようとし、人の思考や感情抑制などを司る前頭前皮質に血液が回らなくなってしまう。

 身近に自殺者が出ると、「なんであの人が」「自殺するような人に見えなかった」などという感想をよく耳にするが、それはその人の「平時」の人物像でしかない。過剰なストレスを受け、心理的危険状態になって前頭前皮質が機能不全を起こすと、普段では考えられないような行動をとりやすくなってしまうのである。

◇叱られるほどストレスに反応しやすくなる

 ストレスの許容量や「何をストレスに感じるか」は人によるが、ストレスに反応しやすいかどうかは、幼少期の体験によるところが大きい。脳には「よく使う神経回路は太くなる」という特徴があり、きつく怒られた経験が多いほど、「ストレスに反応しやすい脳」になっていく。怒られる経験を重ねるほど耐性がつくのではなく、逆に強いストレス下で攻撃モードまたは逃亡モードになりやすくなるのである。