ベトナム戦争の最後、1975年4月30日に北ベトナム軍が、南ベトナムの首都だったサイゴンに無血入城した際には、米国人1373人、ベトナム人など他国人5595人がヘリコプターで脱出、米空母に収容された。

 それとは比べようもないぐらいの大脱出劇が展開されている。

 タリバンも外国人の脱出を認め、輸送機が離着陸することは許し、対米協力者だったアフガン人が空港に殺到するのもほとんど見逃している。反タリバン分子を国外に追い出す方が新政権の安定、治安維持に得策だからだろう。

 だが、カブール以外の各地にいる米国人も少なくなく、米国に協力していたアフガン人は多い。日本を含め同盟諸国が脱出支援で協力しているとはいえ、全員を脱出させるのは極めて困難だ。悲惨な大混乱が続くだろう。

タリバンの規律は維持されている
他国からの早期承認を得る思惑

 いま米軍は残っていた兵員約2000人に加え、最大6000人を投入して空港警備を続け、協力者らの国外避難を助ける構えだが、空港以外に派遣することは計画していない。

 米軍など外国軍が各地に出動すれば衝突が起きてアフガン戦争の再燃となりかねないが、すでにアフガン政府軍と国家警察、計公称30万人は霧消し、大量の武器、弾薬、車両7万6000両はタリバン軍が接収している。勝利を収めたタリバン軍に加わる者は多いから、以前よりはるかに悪い状況下でもう一度戦うことになるからだ。

 幸いタリバン側の規律は保たれているようだ。

 首都カブール制圧の際も、8月14日にカブールの玄関口に迫ったが、乱入して略奪などが起きないよう進撃を一時停止、翌日、粛々と無血入城した。

 20年間の戦いでやっと政権を奪回したタリバンにとって、まずは国内を安定させ、他国の承認を得て、財政、経済を再建することが最大の命題だからだろう。

 タリバンは元政府軍人や対米協力者に対する「恩赦」を宣言している。現状では国内の統治にある程度の自信を持っているのではないか。

士気も練度も低い「傭兵」の政府軍
民心をつかめなかった米国

 もともと米軍などによる統治は根付いたものではなかった。

 タリバンとの戦いには、米軍9万人のほか、英、独、仏など49国が加わり、最大期には14万人の兵力が投入された。

 米軍の攻撃開始から2カ月後の、2001年12月には南部のタリバンの拠点カンダハルを陥落させ、タリバンは壊滅したように思われた。