新型コロナウイルスの感染拡大が続き、業績回復が見込みにくい鉄道会社。ホテルやレジャーなど多角化してきた大手私鉄は特に影響が大きい。ホテルの売却などで、経営や資産を効率化できるだろうか? 東急、西武ホールディングス(HD)、近鉄グループHDの3社の中期経営計画を分析、再生への道筋を検証した。(JPモルガン証券 シニアアナリスト 姫野良太)
多角化の歴史がコロナで痛手
コロナを乗り越えるコスト削減策は
新型コロナウイルス感染症の発生以降、鉄道旅客需要は大幅に減少し、鉄道各社はかつてない赤字計上を余儀なくされている。すでにコロナ発生前の株価水準を1割程度超えている日経平均に対し、鉄道主要各社の現在の株価は、6~8割の水準にとどまっており、資本市場は旅客需要や業績が従来水準まで回復することは難しいと見ていることになる。
一方、2021年初来で見れば、JRや私鉄の一部株価は日経平均の上昇を上回る株価回復を果たしている。背景には、1) ワクチン接種の進捗による国内旅客需要の回復期待、2) 資産売却やコスト削減などの構造改革が進み始めている――といった要因があると見る。例えば、年初来、鉄道業界の中で相対的に株価が戻っているのが、JRでは東日本、西日本、東海、九州、私鉄では東急、西武ホールディングス(HD)などである。
JR各社は、主要私鉄各社に比較して鉄道事業の利益構成比が高く、中でもコロナで大きく減少した出張・観光需要が大きい新幹線・在来線特急の構成比が高い。近距離・定期需要の構成が高い私鉄に比較すると、鉄道需要減少の影響が大きかった分、ワクチン接種進捗・旅客需要の回復が見込める局面では評価されやすいと考えることができる。
東急や西武は、鉄道よりも非鉄道事業の回復期待が大きいと見る。私鉄はJRと異なり、不動産、ホテル、流通、旅行、エンターテインメントなど、非鉄道事業の構成比が高く、これらの業績回復がカギを握る。私鉄各社の非鉄道事業構成比が高い理由は、国家の社会基盤整備として運営されてきた旧国鉄(現JR)と異なり、私鉄の場合、鉄道事業を発展させるために、関連事業にも注力してきたことが背景にある。
阪急電鉄(現阪急阪神HD)の創業者である小林一三は、沿線開発事業と鉄道事業に注力し、事業全体を発展させてきた。東武、小田急電鉄、近鉄グループHDは観光地開発に注力してきた。
また、私鉄各社は旧国鉄と異なり、統合を繰り返すことによって大きくなってきた。企業買収、事業多角化による発展と、競争原理がおのずと醸成され、その競争原理があったからこそ、非運輸事業の発展もあったと言えよう。
新型コロナウイルス感染症が収束したとしても、テレワークの定着などによってビジネス旅客需要・宿泊需要が従来の水準に戻らないという構造変化を念頭に置きつつ、これを補うコスト削減や構造改革、ビジネスモデルの転換などで、従来の利益水準へ回復させていくことが、鉄道各社にとって重要と言える。以下、構造改革やビジネスモデルの転換を進める東急、西武HD、近鉄グループHDの取り組みを見てみたい。