メンバーを「尊重」するとはどういうことか?

 そして、メンバーを「人間」として尊重する第一歩は、メンバーを「知る」ことにほかなりません。

 メンバー一人ひとりが、どんな人生を歩んできたか、何が好きで何が嫌いか、どんなことに喜びを感じ、どんな夢をもっているのか……。そうしたことを知り、それに共感できたときにはじめて、メンバーを「人間」として尊重することができるようになるのです。

 それを教えてくれたのは、かつての上司でした。

 先ほど触れた極端に成果主義的な会社に勤め始めて日が浅い頃のことです。当時、私は営業成績を上げることができず、非常に苦しい状況にありました。その上司にも厳しい叱責を受けて、心が折れそうな思いでいました。

 しかし、その上司も、そんな私を心配してくれたのでしょうか。

 ある日、私を叱責したあとに、「ところで、お前、休日はちゃんと休んでいるのか?」「どんな趣味があるんだ?」などと、優しい言葉をかけてくれました。そして、いろんなことを聞かれましたが、そのなかに「お前、夢って何?」という質問がありました。私は、「子どもじみてると思われるかな……」と一瞬躊躇しましたが、正直に「ログハウスに住むことです」と答えました。

 それから数日後のこと。

 その上司が、私のデスクにやってきて、ドサッと資料の束を置きました。「な、なんだ?」とびっくりしましたが、資料に目にやるとさらに驚かされました。なんと、それは、上司がいろいろなところからかき集めてきた、ログハウスのカタログの束だったのです。

管理職が「自己開示」をするから、
メンバーは心を開いてくれる

 これは、嬉しかった。

 辛い時期だっただけに、正直、涙が出るほど嬉しかった。

 当時、私は、成果を上げられていなかったために、職場で居場所がありませんでしたが、上司が、そんな私の夢を尊重してくれたことで、自分の存在を認めてくれたような気がしました。そして、私が単純な性格だからかもしれませんが、心の底から「よし、この上司のためにも、もっともっとがんばるぞ!」と思えたのです。

 その後、私は、営業のコツを覚えて、成績を伸ばすことができるようになったのですが、その背景には、上司が「お前のことを、一人の人間として応援してるぞ」と励ましてくれたことがあったのです。そして、こんなことが起きたのも、上司が、私のことを「知ろう」としてくれたからなのです。

 だから、私は管理職になったときに、メンバーのことを「知る」ための努力をしようと思いました。メンバーが何を考え、何を望んでいるかを知り、それを尊重することを具体的な行動で示すことが、信頼関係を築く礎になると考えたからです。

 とはいえ、無理に何かを聞き出そうとしても、簡単には心を開いてはくれません。

 だから、まず、管理職である自分が「自己開示」をすることを心がけました。こちらがまず「心の内」を明かすことで、相手も心が開きやすくなるからです。そして、相手の話に素直に耳を傾ける。そんな姿勢を示せば、徐々に、メンバーも心を開いて、いろいろな話をしてくれるようになるのです。