管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。
チームを確実に崩壊させる
マネージャーの「思考法」とは?
リモートワークになると、「成果主義」を徹底するしかない──。
そういう議論をしばしば見かけるようになりました。たしかに、リモート環境下では、メンバーがどういう仕事の仕方をしているかを、管理職が把握するのは難しくなります。だから、プロセス評価などの要素を削ぎ落として、成果主義による評価一本に絞るべきだという主張にも一理はあるとは思います。
しかし、私は、これはかなり危険な議論だと感じています。
なぜなら、そのような思考法を徹底すると、メンバーを「人間」としてではなく、「成果を出すための部品」のようにみなすようになる可能性が高いからです。そして、成果を出せない「部品」は取り替えればいい、という思考に陥ってしまう。そのとき、「人間」の集まりであるはずのチームは確実に崩壊へと向かうと思うのです。
私はかつて、極めて成果主義的な会社に在籍していたことがありますから、その弊害を身をもって体験しました。
「とにかく数字を出さなければいけない」「使えないヤツは切り捨てろ」「社員はリソースなんだから、それで別にかまわない」「また、採用すればいいんだ」。そんな理屈で組織運営を推し進めた結果、職場には疑心暗鬼が渦巻き、殺伐とするばかり。離職率が高止まりして、求人コストばかりがかさむ悪循環に陥っていたのです。
しかも、社員のなかには、「売上を立てればいいんでしょ?」という意識で働く人も増えてきます。そこに、みんなで力を合わせて、より高い価値を生みだそうといった機運など生まれるはずがありません。結局のところ、社員を「人間」として扱わないがために、組織として持続的に成長する土壌を失ってしまったわけです。
だから、リモート環境下であろうがなかろうが、メンバーを「人間」として尊重するのが、マネジメントの鉄則であると私は考えています。
もちろん、社員は成果を上げなければなりません。それには真剣に取り組んでもらわなければならない。だけど、「成果を出して利益貢献しないと、会社は給料を支払うことができなくなる」などということは、誰にだってわかることです。誰だって成果を出したいと思って頑張っているのです。
重要なのは、メンバー全員が成果を上げるために、お互いに助け合い、協力し合う関係性を築き上げることです。そのような土壌があるからこそ、メンバーはモチベーションを維持し、高めることができるのです。
そのために、私は、管理職として「チームは家族です」と伝えてきましたが(詳しくは、こちらの記事)、それは、「私はみなさんを『人間』として尊重します」「みなさんも、他のメンバーを『人間』として尊重する気持ちを忘れないでください」というメッセージを発したかったからです。それこそが、健全なマネジメントの原点だと確信しているのです。
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務める。