日銀総裁人事で、民主党が態度を硬化させている。理由は、2月29日に政府与党が、民主党欠席の中で、08年度予算案を強行採決したことへの反発だという。
新聞各紙もこれを大きく報じた。3月2日付けの読売新聞は1面トップで「予算案採決に反発」「日銀総裁 民主硬化」「山口氏なら同意も」「政府、なお武藤氏」という4つの見出しを掲げて、状況を簡潔に伝えている。
小沢代表は「与野党の信頼関係は完全に崩れた。日銀総裁人事であれ何であれ、与野党で冷静に話し合う状況ではなくなった」と発言しているが、これは政治家の言葉としては相当に奇妙だ。
与党と対立していること自体は構わない。むしろ、普通のことだろう。しかし、言葉のあやであるとしても、自分達が「冷静ではない」というのは、国民の代表たる政党党首としていかがなものか。他人を非難するときに「あなたは冷静じゃない」という言葉はあるが、自分で「冷静ではない」と言うのは、政治家として尋常ではない。「信頼関係が失われた」ことがどうしたというのだ。もともと与野党が「信頼」して馴れ合うことが必要なのではない。信頼せずとも、冷静に議論を戦わせることが重要なのだ。
総裁候補に対案を出せない
民主党の無責任
さて、民主党は日銀総裁人事を駆け引きに使おうとしている。それが政治ゲームの一手ではあるとしても、日銀総裁に関して、民主党にはいまだ自ら提示した対案がない。誰を総裁としてベストと考え、何が日銀総裁に必要な条件だと考えているのか。この点が、明快でないのは、民主党の落ち度と言わざるを得ない。
1月の段階では、鳩山幹事長は「民主党として誰が適任なのか人選を申し上げることになる」と発言していた。しかしその後、もともと民主党側のカードであったはずの日銀総裁人事は、むしろ民主党の内紛の種になってしまった。新聞には、民主党参議院のある幹部の話として、今のところ民主党内では、武藤氏よりも良い人材を誰も挙げることができていない、という談話が載っていた。党の幹部が記者に党の無策を披瀝するのもどうかと思うが、それが今の民主党の実情なのだろう。
また民主党は、人事案の提示を受けるにあたり、人事案が先にマスコミに漏れた場合はその案を受け取らない、といった奇妙な条件を付けた。これに対して、報道の自由に反すると反発したマスコミも一部にあったが、ともかく民主党の態度は、政府の提案を受けるまでは白紙だということであった。