『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が20万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
無気力や学習性無力感を乗り越える方法はありますか?
ここ1年くらい徐々に無気力になって社会との接点が無くなってきています。恐れもなく積極的だった時期もありますが、就活に失敗して就職できなくて、人と関わることが少なくなり最近は引きこもりになってしまいました。まだネットで稼いだり、外に出たり友人となら話せるレベルです。今ならまだ間に合うし、逆にこれ以上変化を先延ばししていくと辛くなるのが目に見えています。対人不安を克服して社会と関わって自立したいです。
自分ではなく他人の観察をしてみましょう
[読書猿の回答]
メンタルな問題の多くは、何らかの悪循環によって維持・再生産されているのですが、我々が慣れた問題解決はリニアなものなので、原因を探したり、悪いものを取り除こうとして、悪循環を余計悪化させてしまいがちです。
例えば対人不安は、直接には自己注視(自分自身に意識を集中すること)によって生じますが、プレッシャーや過去の失敗などから「もう失敗できない」と考えると当然ながら自己注視は強まります。
悪いことに、対人不安を問題視すること、なんとかしなければと思うこと自体が、自己注視を強めます。解決し難いメンタルな問題は、こうした問題解決への努力がかえって問題を再生産する悪循環からできています。
また学習性無力感の方ですが、自分の行動が自分の置かれた状況に何の変化も与えられないと考えることから生まれ、変えうる状況に対しても変えようとする意思を失うことに至ります。
就活の成否は、基本的に自分にコントロールできるものではありません。失敗の原因を自分に求めてしまうと学習性無力感に陥らざるを得ませんし、自己注視の方も強化されがちです。
さて、今回の場合、陥りそうな間違いを注記しておくと、「自己注視をやめよう」という努力は「ピンクの象を考えまい」とすることに似て逆効果です。自己注視に費やされている認知資源を、他に割くのがおすすめです。
具体的には、自分でコントロールできるものを増やすことは自己効力感を高めます。確実に成果が出るプログラミングなどはオススメですが、向き不向きもあるので、他にはソーシャル・スキルについて学ぶ/トレーニングすることを勧めます。
自己注視は「他人の目」を気にすることをきっかけに「自分の行動」に注意を向けることではじまります。これに対して自分が想像する「他人の目」ではなく、実際に周囲の人はどんな行動をしているかを(解釈抜きに)細かく観察するのは、ソーシャル・スキルのリハビリと初歩の自主トレによいです。観察結果を記録・言語化すると上達が自覚できてよいです。