NHK「あさイチ」(2021年11月15日放送)で「おとなの勉強」特集されるなど、「おとなの勉強」が注目されています。その火付け役ともいわれる『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』は、20万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
[質問]
読書猿さんはよく「高校までの学びと、大学からの学びは違う」とおっしゃっています。どういうことでしょうか?
大学では「正解」ではなく「知らないことにどう向き合ったか」が評価される
[読書猿の回答]
ほんとは「地続き」ならぬ「知続き」なはずなんですが、目的と目標に違いがあるのかもしれません。
大学入試試験を始めとする「テストで正解するための勉強」だけが学ぶことだと思っていると、大学に入ってから辛い。大学で課される課題は、必ずしも正解があるわけじゃないからです。
テストというのは、必ずたったひとつの正解がある。そのように作らないとテストに間違いがあったと新聞報道されるし、謝罪しろとなる。
一方で、現在の大学は元々、18世紀なかばから19世紀にかけてドイツに誕生した研究大学の流れを汲むもので、研究を通じて教育を行うという原理でできたものです。だからこそ教員免許も持たない研究者たちが、そのまま学生の教育にあたっている。
研究という知的営為は、これまで人類が誰も知らない、新しい知識を作り出す仕事です。
なので大学で評価されるのは、その人が何を知っているかではなく、知らない何かにどう向かい合うことができるか、なのです。
大学は、そうした知識の製造過程を知ることができる、その気になれば製造過程に参加さえできる、得難い場所です。どこにも解答がない問題に直面した時、不器用にでも自分のために新しく知識を生み出せるような、そんな技術と胆力を身につける、大学はそういう場所なんです。
出来合いの知識を押しいただく態度だと、大学で体験できる、こうした良い部分をほとんど何も知らずに去ることになる、と思います。
研究という知的営為は、実験なら失敗し続ける、調査なら大した成果が得られない、そんな期間がほとんどを占めます。普通なら心折れる、そうした失敗、試行錯誤の果てにわずかな成果が得られて、研究者はそれを発表したり論文にしたりするんです。
我々の多くは、その成果品しか見ないから「分かっている」ことだけで知識の世界が成り立っているように錯覚してしまう。
大学で、無知と未知に向かい合い、逃げ出さず食い下がり、知識を生み出すことが一体どのようなことなのか体験しておけば、出来合いの知識を盲従したり、その裏返しで拒否したりすることから脱すること、流通している情報や知識を評価すること、そして先にも言いましたが、自分が直面した問題に対して新しい解決策を生み出す力が得られます。
『独学大全』という本の中で、繰り返し「学ぶことは変わること」なのだと書きました。
言い換えれば、「学びたい」という気持ちを抱く限り、人は何度でもやり直せる、ということです。
無知と未知に挑むことを旨とする大学は、本来、自身の不足に向かい合う人を歓迎する場所です。
時間や資金の面で誰にも許されることではありませんが、必要を痛感した時、もう一度何らかの形で大学で学ぶことができれば、すばらしいと思います。フルタイムの通学が無理でも、例えば通信制の大学が日本各地に、そして世界各国にある。最近は無料で利用できる、MOOC(Massive Open Online Course:大規模公開オンライン講座)もある。
先日、イギリスの通信制大学の老舗であるThe Open Universityのサイトを見ていたら、イギリス空軍にいながら工学修士を取った人の体験談が載っていました。軍隊生活で自由時間はほとんどないし世界中に赴任先が変わったけれど、Wifiさえ使えれば学び続けることができた、と。格好の宣伝なんですが、時代を感じます。学ぼうとする人たちにとって、良い時代が来ているのだと。