手段を目的化しないために
長期の視点を取り戻せ
鴨居 : 昨年(2020年)、我々は2030年のアビームは「こうなりたい」というビジョンを示した「Vision 2030」と、実行計画となる「Strategy 2025」を策定しました。
そのエッセンスの一つは、社会的なテーマにきちんとアクセスしていくこと。社会課題に果敢に挑む企業や公的機関などと協業して、解決の一翼を担っていくことです。そのためには、従来のコンサルティングファームの枠を超えた存在にならないといけないと考えています。
平成の30年間、伝統的な日本企業の国際競争力が総体的に劣化していった一方で、コンサルティング業界は大きく成長しました。その矛盾を我々自身がもう一度かみしめて、どういう存在になっていくのかというビジョンと戦略を示したつもりです。
我々コンサルティング業界も、いままさに大きな変革期にあります。リスクを取って意思決定を行う経営者と一緒にやっていく時に、これまでのように「how」を持ち込むことで課題解決を支援するだけではなく、「why」や「what」の部分から一緒に悩んで考えたり、トライアル・アンド・エラーを繰り返したりしながら、社会課題を解決し、新たな価値を共創していく。その実現力がますます求められると考えています。
そうした社会課題の解決と価値共創は、私たちだけではできない面もありますから、多様な「人」と「知」、そして組織や企業の枠組みを超えた「能力」を統合したプログラムを推進できることも、今後私たちに求められる役割だと自覚しています。
楠木 : 社会課題の解決はこれまで公的部門や非営利組織が主に担ってきましたが、これからは企業が担う部分が増えていくことは間違いありません。公的部門に比べて機動的ですし、連携すればスケールも大きく、結果としてインパクトが大きいからです。
そして、事業活動とサステナビリティが中長期的に完全にトレードオンであることが理解できれば、企業の動きは一気にダイナミックになっていくでしょう。ですから、御社のようなコンサルティングファームに期待したいのは、サステナビリティの中にオポチュニティがあることを論理的に示し、経営者をその気にさせることです。
鴨居 : 我々は、ESGへの取り組み、非財務価値への投資が、数年後の財務価値にどういうインパクトをもたらすかをデジタル技術を使って分析し、そこから示唆を導き出すサービスを展開していますが、そういうテクノロジーを活用した新たなアプローチにより、クライアントのオポチュニティ獲得を支援していきたいと思います。
楠木 : もう一つ、コンサルティングファームに期待したいのは、世の中に長期の視点を取り戻すことです。
人間社会というのは、みんなが目先の、短期の問題に囚われがちです。典型的なのが、投資家と経営者の関係です。投資家は「もっと株主還元しろ」「自社株を買え」「配当を増やせ」と言います。一方、経営者は自分たちの経営の自由度を維持しておきたいので、そこで対立が生じます。
短期で見れば利益相反の関係なのですが、長期で見れば経営者が利益を出し、企業価値を高めていくことで、投資家のリターンも上がります。ですから、投資家が企業を長期で評価することができれば、経営者にとって株主との対話が長期視点を獲得する手段にもなるわけです。
問題の本質は、放っておくと、どんどん短期に流れていって、手段が目的化していくことです。世の中を長期視点に戻すのは誰かを考えた時、歴史的にはそれは教会であったり、ある時は政治リーダーであったりしました。いまは政治家が一番近視眼的になっているかもしれません。
長期視点へと流れを押し戻す主役の一人は、経営者だと私は考えています。コンサルティングファームには、ぜひそれを後押ししてほしいのです。
鴨居 : 大きなテーマですが、勇気を持ってチャレンジしたいと思います。そのためには、まず我々自身が変わらなくてはならない。今日の対談で、それをあらためて痛感しました。