人の心に火をつける“場”づくりに挑む
会社と社員は、選び、選ばれる対等の関係

「個」を活かす組織とラーニングデザイン

管理する人事から
支援する人事へ

下村 : 多様性はイノベーションを生み出すために欠かせない要素ですが、イノベーションとは成功確率の低いものに挑戦し続けなくてはならない側面があり、事業の収益性、生産性を落とすリスクもあります。一方で、各事業部門はそれぞれの利益目標を達成しなくてはならないという現実があり、その兼ね合いが、非常に難しいところですね。

安部 : おっしゃるように、イノベーションと財務規律のバランスは非常に難しい問題ですが、私は必ずしもトレードオフの関係ではないと思います。一時的に生産性が落ちたように見えても、イノベーションを創出できれば、それが財務面で大きなリターンをもたらします。

 新しいことに挑戦すれば、成功より失敗の数が多いのは確かです。でも、創業メンバーである井深大や盛田昭夫も多様性を大切にしながら、多くの失敗を経てイノベーションを創発してきましたし、現CEOの吉田もソニーネットワークコミュニケーションズ(旧ソネットエンタテインメント)の時代にいろいろな事業を立ち上げ、成功と失敗双方の経験を経て、同社を上場企業に育て上げました。

アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル
 岩井かおり 氏Kaori Iwai
食品会社の商社部門勤務を経て、2000年アビームコンサルティングに入社。グローバル経営基盤導入プロジェクトを中心に実施。現在は、アウトソーシングサービス担当とともに、CWO(Chief Workstyle Innovation Officer)、サステナビリティユニット長を務める。

 多様性をベースに「夢と好奇心」で新しいことにチャレンジする。そこに共感する人が集まって、ソニーという会社を支えてきたわけで、ソニーグループは多くのそういった人々によって支えられているといえます。

岩井 : 安部さんが管掌する人事では、「管理する人事から、支援する人事へ」と変革を進めていると伺っています。

安部 : 多様性から価値を生み出すには、社員みずからの意欲、熱意の発揮を支援することが基本となります。社員が主体性を持ってさまざまなことにチャレンジし、アウトプットを最大化することによって初めて多様性からの価値創造が実現し、その総和としてソニーグループ全体の成長が牽引されると考えるからです。

 ですからソニーの人事施策は、社員に常に選択肢を提供し、みずからが「やりたい」と思うことに果敢に挑める支援を行うことを基本としています。たとえば、やる気と意欲があって条件が整えば、希望する部署やポストに異動できる「社内募集制度」があります。社員は上司の許可なく応募でき、決定すれば異動が保証される制度で、すでに55年以上の歴史を有しています。創業以来、会社と社員は基本的に選び、選ばれる対等の関係であるという考え方が浸透し、継承され続けてきたからこそ、これだけ長く続いてきたのだと思います。

 かつて盛田昭夫は、入社式のたびに新入社員に向かって「ソニーに入ったことをもしも後悔することがあったら、すぐに辞めなさい。貴重なあなた方の人生を無駄にすべきでないし、人生の最後に、けっして後悔をしてもらいたくない。そしてソニーで活躍すると決断したら、責任を持って期待に応え、貢献してほしい」と語り続けていました。選び合い、応え合う対等な関係という考えは、ここに強く表れています。

岩井 : たとえば、先ほどおっしゃっていたようにイノベーションに失敗は付き物ですから、失敗を許容する文化が欠かせません。こうした文化を醸成することも人材支援の一つだと思いますが、一人ひとりの社員の「個」を活かし、挑戦を続けさせるために、どのような支援を行っていますか。

安部 : 人事が直接、社員一人ひとりを支援するというよりも、フロントで日々、社員と向き合っているマネージャーである管理職を通じた取り組みが重要で、それを通した仕組みづくりや文化の醸成を図っています。

 社員に対して期待されているものは何かをきちんと伝えながら、一人ひとりがやりたいことを尊重し、それを支援しよう、そういう文化の大切さを、社員と直接向き合うマネージャーとしっかり共有することが重要だと考えます。

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