グローバルな人事マネジメントは
地域軸ではなく事業軸で
下村 : 社員の成長につながるキャリア機会を提供することも企業にとって重要な課題ですが、先ほどの社内募集制度にしても、本人が手を挙げて選んだ新たなキャリアで必ずしも100%のパフォーマンスを発揮できない可能性があります。選択を促すための何らかのセーフティネットは必要だと思われますか。
安部 : 選択肢は用意しますが、すべての社員に平等に機会を与えるというよりも、あくまで本人の主体性、挑戦心を支援することが前提です。
社内募集制度は、新しいプロジェクトを立ち上げる時、それに関心のあるメンバーを集めるために活用されることが多いのですが、それは意欲や関心がどんなスキルよりもプロジェクトを進めるうえで、強力なドライバーになることをみんなが知っているからです。
新しいプロジェクトに関わるのは当然リスクもありますが、そういうリスクも含めて挑戦してほしい。
当社では社内募集のほかにも、一つの部署で継続的なパフォーマンスを上げた社員にはフリーエージェント的な異動の権利を与える制度や、業務時間の20%を新しいことへの挑戦に充てられる「キャリアプラス」といった制度もありますが、利用するかどうかはすべて社員の自主的な判断次第です。義務化したとたんに、やらされ感が出て効果が低下してしまうと思います。
下村雄吾 氏 Yugo Shimomura2000年アビームコンサルティング入社、経理・財務分野を中心に組織再編、業務プロセス改革、ERP導入、DX関連プロジェクトに従事。2018年ラーニングデザイン委員会を設立、リーダーに就任。2021年4月よりABeam Consulting (Malaysia) Sdn. Bhd. Managing Directorとしてマレーシアに駐在。
下村 : パーパスやバリューを伝えていくという上からの流れと、個人の意欲や希望を吸い上げていく下からの流れをうまくバランスさせるためには、フロントマネージャーの役割がますます重要になりますね。
安部 : おっしゃる通りです。現場のフロントでマネジメントに当たっているマネージャーの役割は大きくなりこそすれ、小さくなることはありません。その役割を十分に果たしてくれれば、企業としての価値創造の基盤がさらに強化され、成長の機会が広がります。今後も引き続き、マネジメントを支援していくことが、人事にとってますます戦略的な意味が大きいといえます。
下村 : 人材マネジメントの戦略的課題という点では、個々の人材のグローバル化、すなわち国や地域によって異なる文化や価値観を理解したうえで、企業として普遍のパーパス、バリューを共有、実践できる人材を育てる必要もあります。
安部 : そこは永遠の課題ですね。当社ではかつて、エレクトロニクス事業が経営の大きな部分を占めていた頃、アメリカ、ヨーロッパ、アジアといった、地域ごとの人事責任者とともに、グローバルな人事制度の構築に取り組んでいました。しかし、これでは、どうしても地域代表が集まった、各地域からの視点の統合という形で人材マネジメントがとらえられてしまうことが多かった。
ソニーグループは現在、6つのセグメント、8つの会社のCEOが経営チームとして吉田を支えているのですが、それぞれのCEOのパートナーとしてCHRO(最高人事責任者)が配置されており、そのCHROたちと私がチームを組んで、グループ共通の取り組みを議論し、遂行する体制となっています。
各事業のCHROはいずれも地域を横断した人事の責任を持っているので、日頃から事業活動を通して、地域の違いを超えて多様性から価値を生むことに取り組んでいます。たとえば、地域を超えた人材の活用、機能の移管、ローテーションや育成といったことですが、そうした施策を有機的に連携させることで、グループ・グローバルな人材活用を次のステージに持っていきたいと考えています。