そう思えるのが、前回、2017年10月22日の衆院選だ。実はこの時には北朝鮮のミサイルは飛んでいないが、これまで同様に「北のミサイル」が争点になった。というよりも、安倍元首相がそうした。

 8月29日、北海道えりも町の上空を、北朝鮮の弾道ミサイルが通過して、太平洋に落下したのだ。さらに9月に入ると核実験も行い、15日には再び北海道上空を越えるミサイルを発射した。これまで日本海に落ちていたミサイルが、日本の上空を超えていった。これで「北の脅威」のステージが上がったのだ。

 その13日後、安倍元首相は解散を決断。これを「国難突破解散」と名付けて、実質的に選挙戦に突入したのである。

 当時、モリカケ問題などで逆風の中だったが、この衆院選は議席増減なくなんとか乗り越えた。起きた現象だけを客観的に見れば、安倍政権にとって、金正恩氏のミサイルは「ナイスアシスト」になっているのだ。

 さまざまな事実が示しているとおり、北朝鮮のミサイルが、日本の選挙と密接な関係があることはお分かりいただけただろうか。これまでの状況を見れば、金正恩氏が望んでいるのは、「強い外敵」、日本で言えばゴリゴリの対中・対北朝鮮強硬派だ。

 これまでのミサイル発射の傾向を見ると、その役割を安倍元首相に求めてきたフシがあるが、世代交代でもっと過激で、もっと若い政治家を望んでいるはずだ。

 そこで思い浮かぶのは、新たな「保守のマドンナ」となった高市早苗氏だ。今回も選挙応援で引っ張りだこだという。

 敵基地無力化を強く主張する高市氏は、拉致問題を最重要課題の一つに位置づけて、総裁選でも金正恩氏と1対1の対談の場をつくるべきであり、北朝鮮に乗り込んででも話をつける、と力強いメッセージを発信した。

 そういえば、しばらくおとなしかった北朝鮮がミサイルが発射し始めたのは、自民党総裁選からだ。今回のミサイルは、金正恩氏なりの高市氏への「ラブレター」かもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)