一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、資産形成、経済的自立のために知っておくべきお金の教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。世界43か国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに10000件以上のレビューが集まっている。本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』が、12月8日に発売となった。その刊行を記念して、本書の一部を特別に公開する。
倒産しかけだったディズニーを救った「400分の1の作品」
ウォルト・ディズニーは、『蒸気船ウィリー』でアニメーターとしての地位を確立した。だが、ビジネスでの成功は別の話だった。ディズニーが最初に設立したスタジオは倒産の憂き目に遭った。
多くの作品は制作費が莫大にかかるものばかりで、資金調達の条件も法外だった。ディズニーは1930年代半ばの時点で400本以上のアニメーション作品を制作していた。大多数が短編で、視聴者には愛されたが、赤字続きだった。
すべてを変えたのは、『白雪姫と7人の小人たち』だった。この作品は1938年の前半だけで、それまで同社が稼いだすべての収益よりも桁違いに多い800万ドルもの収益を叩き出した。
この大ヒットで、ディズニー・スタジオは大きく様変わりした。会社の借金はすべて返済し、古株の社員には残留手当が支給された。カリフォルニア州バーバンクに最新鋭のスタジオも購入した。同社は現在もここを本拠地にしている。
ディズニーは1938年までに延べ数百時間分の映画を制作したが、ビジネス的には『白雪姫と7人の小人たち』の83分間がすべてだった。
成功のカギは「テールイベント」
何であれ、莫大な利益を上げたり、特別に有名になったり、巨大な影響力を及ぼしたりするものは、「テールイベント」(数千~数百万分の1の確率で起こる例外的な出来事)の結果だと言える。人々の目は、巨大なもの、儲かっているもの、有名なもの、影響力のあるものに向けられる。つまり、私たちが注目するもののほとんどは、テールイベントの結果なのである。
(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)
ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。