元ゴールドマン・サックス金利トレーダーの田内学氏が、新刊『お金のむこうに人がいる』には書けなかった「GS時代の小話」を明かす。とある結婚式での出来事。(構成:編集部/今野良介)

「結婚という金融商品」の価値を外資系金融マンがボソッと漏らすPhoto: Adobe Stock

「みんな、お金の話が大好きだよね」

日本ではコロナの状況が少し落ち着き、ホテルのロビーでウェディングドレス姿を写真に収めている方を見かけることが増えてきました。

かつて、友人にこんなことを言われたことがあります。

「この前、知人の結婚式に行ったときに、同じテーブルにおたくの会社の人たちがいたんだけどさ、ずっとお金の話ばかりしてたよ。どこの別荘地の土地が一番値上がりしているとか、フェラーリのバンパーの修理代が高くついた話とか。みんな、お金の話が大好きだよね」

きっと不快な思いをしたのだろうと思い謝罪すると、意外な返事がきました。

「いや。たしかに、はじめは下品だなあと思って聞いていたんだけど、そうでもないことに気づいたんだよ。車会社の人が大好きな車の話を熱く語っているのと同じで、お金を扱う会社だから、お金について熱く語っているだけなんだよね。お金を通して社会を見てるって感じがした」

たしかに、言われてみればその通りです。金融の世界で働く僕たちは、お金を通して社会を見ることに慣れていました。

この話を聞いて、社員同士でよくやっていた「フェルミ推定ゲーム」を思い出しました。

たとえば「日本にウェディングプランナーは何人いるか?」「日本の中にお寺はどれくらいあるのか」のように、いろんな数字を推定するのです。参加者一人ひとりが人数を推定し、一番近い予想を出した人が勝ちです。インターネットで検索することは許されません。

そして、こういった推定をするときにはたいてい、お金に着目して考えます。

「一生のうちで結婚して披露宴を開く回数を平均すると0.5回くらい。一回あたりの平均200~300万円。とすると、ウェディング市場の規模が2兆円くらいになる。それはGDPの0.4%くらいにあたるから、ウェディング関連で働いている人は30万人くらいで、その中でウェディングプランナーは……」という具合に考えていくのです。

お金というのは、社会を眺める使い勝手のいい「モノサシ」になります。

しかし、お金をモノサシとして使うことに慣れすぎた人の中には、“行き過ぎた考え”を持つ人もいました。たとえば、結婚を金融商品と同じように捉えるのです。

「結婚なんてネガティブキャリーだし、アンワインドにもお金がかかるんだぜ。誰がそんな金融商品買うんだよ」

説明します。

証券会社で扱っている株や債券などの金融商品は、購入時にお金がかかります。同じく、新居準備や結婚式、新婚旅行など、はじめにお金がかかる「結婚」を金融商品に例えているのです。