一般的な金融商品は、配当や利子などの形でキャリー(定期的に入ってくる収入)を得られますが、結婚するとそのキャリーが「ネガティブ」、つまり「お金が出ていくばっかりだ」というのです。

そして、金融商品はアンワインドすれば(売却したり、解約したりすること)お金が入ってきますが、結婚の場合はアンワインドすれば(つまり離婚)慰謝料を取られてお金がかかる、と主張しているのです。

この人の話は極端です。「なるほど」と思いながら読んでいる人はほとんどいないでしょう。結婚生活には、お金では測れない幸せがあるからです。

「ところで、どの株が上がりそう?」

お金しか見ない人の話なんて極端だと思うかもしれません。

ですが、「投資」の話になると、お金しか見えなくなることが多々あります。16年間、金融の世界で働いてきましたが、未来の社会のためになる投資は一部で、多くの投資がただのマネーゲームになっている現実を見てきました。

僕は2年前に会社を辞めて、今年の9月に書籍『お金のむこうに人がいる』という本を出版しました。資本主義ど真ん中の外資系証券で生きてきた人間が、なぜこんな道徳的なタイトルの本を書いたのかと言われることもあります。ですが、お金を中心に社会を捉えることの歪みを一番大きく感じる環境で働いてきたからこそ、「お金の価値とは何だろうか」とか「投資の目的とはなんだろうか」という本質的なことを考えるようになったのだと思います。

「現代社会では、お金を中心に社会を捉えがちだ」と僕が話しても、「そんなことはないよ。田内さんが金融の世界にいたからそう感じているだけだよ」と言われることもしばしばです。

しかし、そんな人に限って、「ところで、どの株が上がりそう?」とか「仮想通貨って買ったほうがいいのかな?」とか聞いてきます。

書店に行っても、「お金の増やし方」をテーマにした本が山のように売られています。

老後資金2000万円問題が話題になって以降、年金問題も、少子高齢化の問題からお金を増やすための問題にシフトしているように思えます。

僕は、この年金問題こそが、お金を中心に社会を捉えている最たる例だと思います。仮に一人が2000万円を貯めて老後を迎えても、そのお金をもらって働く人がいなければ生きていくことはできません。少子化が続いて働く人が減ってしまえば、高齢者世代を支えられないのです。

もちろん、AIによる自動化やロボティクスなどが発達して生産効率が上がれば、労働人口が減っても社会を支えられるかもしれません。そのためには、未来の社会を作る分野への投資が必要になります。お金を増やすために株の銘柄を選ぶことや、仮想通貨を買うことが投資だと思っていると、問題解決には至りません。

一人ひとりの問題は確かにお金で解決するのですが、全員がお金を増やすことばかり考えていると、社会全体の問題は何も解決しなくなってしまいます。

お金のむこうに人がいる。つまり、“お金”を中心に社会を捉えるのではなく、そのむこうにいる“人”を見ないと、日本全体がこのまま沈没してしまいかねないと危惧します。

こういう記事を書くと、知人から「記事読んだよ」という連絡がきます。今回ばかりは、「ところで、どの株が上がりそう?」という質問がこないことを祈っています。