株式投資、してますか?「株とギャンブルは違う。株に投資をすれば、会社の成長にお金が使われる。設備投資や新規雇用が増えることで、会社は大きくなるし、景気も良くなる」。ごもっともです。ただし、実態はどうでしょうか。新刊『お金のむこうに人がいる』を著した元ゴールドマン・サックス金利トレーダーの田内学氏が、2020年の証券取引所(日本取引所グループ傘下の証券取引所)での日本株の年間売買高から、「ある事実」を明らかにします。(構成:編集部/今野良介)

――ちょっと、次の3択問題を考えてみていただきたい。

【Q】
値上がりしそうな会社の株を10万円で購入した。その10万円は、主に、どこに流れるだろうか?

A:その会社の設備の購入や従業員の給料
B:その会社が銀行から借りているお金の返済
C:その会社とはまったく関係ない人々の生活

株式投資の99%以上はギャンブルである。Photo: Adobe Stock

【答え】
C:その会社とはまったく関係ない人々の生活

投資という名の「転売」

理由はどうであれ、日本には大量の預金があるのは間違いない。その大量に積み上がった預金を前に、投資を勧める人たちがいる。

「銀行にお金を眠らせたままにしているのはもったいない。有望な会社の株に投資をしたほうがいい」

もっともな意見にも聞こえるが、受け入れにくいと感じる人もいるだろう。

「株の上げ下げを当てるなんて、ただのギャンブルじゃないの? そんなことに時間とお金を使うなんてもったいない」

しかし、その直感を言葉に出そうものなら、次のように畳み掛けられる。

「株とギャンブルは違う。株に投資をすれば、会社の成長にお金が使われる。設備投資や新規雇用が増えることで、会社は大きくなるし、景気も良くなる」

どこかの本に書いてあるような話を聞かされる。この話はもちろん正しい。だが、当てはまるのは1%以下だけだ。あなたの直感のほうがよっぽど正しい。年間の株式売買のほとんどが、ただの転売だ。

株式投資の99%以上は、ギャンブルなのだ。

会社の成長に1%も使われないお金

株式の転売は、コンサートチケットの転売に似ている。

たとえばあなたの大好きな歌手がコンサートを開き、全席指定の1万円の前売り券が明日発売される。あなたがチケットを買えば、そのお金はコンサートの主催者に流れていく。このお金があるから、コンサートに必要な機材や会場を確保することができる。あなたの応援する歌手にも支払われるし、所属する会社の成長にもお金が使われる。

チケット発売当日、人気のチケットは5分で完売した。残念ながらあなたはチケットを買えなかった。

意気消沈のあなたの元に「3万円でチケットを譲るよ」と、チケットの転売を持ちかける人が現れる。どうしてもコンサートに行きたいあなたは、3万円支払ってチケットを手に入れた。正規に販売されたチケットと転売チケットの違いは、価格だけではない。決定的に違うのは、お金が流れていく先だ。あなたの支払った3万円は、応援している歌手や会社には流れていかない。チケットを転売した人に流れ、その人の生活に使われる。

株に投資するときも同じことが起きている。ほとんどの人は転売されているチケットを買う。つまり、ほとんどのお金は応援したい会社には流れていないのだ。

2020年の証券取引所(日本取引所グループ傘下の証券取引所)での日本株の年間売買高は744兆円。一方で、証券取引所を通して、会社が株を発行して調達した資金は2兆円にも満たない。コンサートの例に当てはめると、主催者が売ったチケットはたったの2兆円で、742兆円は転売されたチケットの取引量というわけだ。

株が会社から新たに発行されるときに、株を購入する人がいる。その人のお金だけが会社に流れて、その会社の成長に使われる。それ以外の取引はすべてが転売だ。コンサートチケットの転売はコンサート当日までが勝負だが、株というチケットは、会社がつぶれるまで転売され続ける。

もちろん、株式市場が無意味だと言いたいわけではない。もし株式市場で株を転売できなかったら、会社が株を発行しても購入しようと思う人が減ってしまう。売ることができるから、会社が株を発行しやすくなっている。

でも、あなたが会社に投資したと思っているそのお金は、株を転売してくれた人の生活に使われ、会社の成長に1円も使われていないのは事実だ。そして、この転売はただのギャンブルでしかない。

勝利条件は「他人に高く買わせること」

僕たちが投資だと信じているものの多くは、転売を目的にしている「投機」と呼ばれるものだ。株にしても為替にしても、安く買ったものを高く売って、転売で儲けることを目的にすることが多い。転売を目的にワインやコンサートチケットを買うのも投機だ。

投機で購入する人は、価格の値上がりによって儲ける。価格が値上がりするのは、樹木に果実が育つように何かが成長しているわけではない。コンサートチケットが1万円から3万円に値上がりしても、コンサートの質は良くならない。

「値上がりした」とは、「チケットを高く買ってくれる人を見つけた」という意味に過ぎなくて、コンサートの質が良かろうと悪かろうと、高く買わせることができれば儲けられる。あなたがコンサートチケットに3万円を払わされたように、高く売って儲けた人の反対側には、高い価格で買わされた人が存在する。安く買うときにも、反対側には安く売らされた人がいる。投機という転売がギャンブルだというのは、そういう意味だ。果実を実らせて分け合うのではなく、増えることのないお金を参加者の間で奪い合っているのだ。

「日経平均株価が上がっている。経済が成長している」と喜ぶ人たちがいる。彼らが株価だけを見て喜んでいるなら、チケットを高く売って喜んでいる人と大差ない。人気のコンサートチケットが転売市場で高騰するように、株を買いたがる人が増えると株価が上昇する。別に、みんなの生活が豊かになっているわけではない。株を高く売れた人が喜ぶだけだ。

生活を豊かにするのは、株価という会社の価格ではなく、会社が作り出すモノから得られる「効用」だ。

たとえば、鉄道会社は鉄道を運行することで僕たちに効用をもたらす。この効用を高めているのは、鉄道会社で働く人たちに他ならない。決して、鉄道会社の株をたくさん買って、株価を上げた人ではない。彼らはただ株券を握りしめて座っていただけだ。(※)

僕たちの生活にとって重要なのは、会社のもたらす効用だ。効用が増えれば、会社が儲かり、株主への配当が増える。その結果として株価が上がることがある。それは喜ばしい株価の上昇だ。しかしそれは結果であって、経済の目的ではない。

株に限らず、投機が加熱すると価格が上昇する。その価格上昇は、他人に高く買わせられるということでしかない。効用を増やしてはいないのだ。

(※)ある程度の株式を取得した上で会社に積極的な提言を行う投資家や、大部分の株を購入して、会社ごと買収する投資家も存在する。彼らはもちろん、ただ座っているとは言えず、会社がもたらす効用を変えようとしている。

(了)