潜在意識の中にある「DXバイアス」、その克服法とは

 企業のDX推進を阻害しているもう一つの要因が、デジタルそのものや、デジタルを前提としたイノベーションに対する抵抗感である。私はこれを「DXバイアス」と呼んでいる。

 DX推進の抵抗感に関わる要因には、「デジタル活用姿勢」「意思決定パターン」「感情」の三つの層があると考えている。そして、各層にある「データ活用姿勢」「リスク選好」「深化型/探索型」「デジタルへの感情」の四つの要素を「DXバイアス」として整理し、人材データの測定を試みている(図2参照)。

 まず表面に現れやすいのは、「デジタル活用姿勢」である。これは、仕事を進める上でどのくらいデータを積極的に活用しようとするか、という傾向だ。

 潜在意識レベルの要素としては、「デジタルへの感情」がある。これは、デジタル技術に対してどのくらいポジティブな感情を持っているか、という観点で探るものだ。

 DX推進においては、さまざまな感情が関係している。私たちはこの「デジタルへの感情」を、最も影響力の大きい要素として評価している。

 しかし、感情のような潜在的なものは、自分自身では認識しづらい。そのため、それぞれの社員、特に幹部やマネジャーにどのような「DXバイアス」が隠れているかを知ることは、企業がDXを推進していく上で重要なファクターになる。

 実際、幹部やマネジャーを対象にしたDX研修でグループディスカッションを行うと、彼らの本音が聞こえてくることがある。典型的には次のようなものだ。

▼自社で新しいデジタル技術を生み出すことは難しい
▼業務でDX化やAI化が進むと、自分の仕事はなくなってしまうのではないか
▼GAFAがこの世界の勝ち組で、今さら自分たちがDXで頑張っても仕方がない
▼もう自分は年を取ってしまったので、対応が難しい

 確かに、自社で新しいデジタル技術やAIモデルを作るのは難しいかもしれないが、ビジネスに応用するのは難しくないのではないだろうか。自分でプログラミングをできなくても、AIがどういうもので、この業務ではディープラーニングや機械学習が使えるのではないか、とイメージしてみるのはどうだろうか。

 年齢についても、ハーバードビジネススクールのある論文によれば、ベンチャー企業を成功させた人の多くが40代、50代である。もちろん60代以上でも可能である。新しいことに取り組み、成功を収めるために年齢が足かせになるというのは、思い込みにほかならない。