人はどんな状況でも、孤独からはじめられる

他人と物理的・心理的な距離が広がり、「1億総孤独」といえる現代。他者に依存せず、「個」として自立するには、どうすればいいのでしょうか。寺田倉庫の経営改革などを果たし、NHK「SWITCHインタビュー達人達」でコシノジュンコ氏と対談し話題となった「77歳・伝説の経営者」、中野善壽氏は、「孤独を生きることで、自分の感性を信じ、磨き抜くことができる」と語ります。中野氏は孤児同然の幼少期を過ごし、孤独のなかを生きてきました。しかし、そこで自分の感性を磨き、「個」として自立していきます。社会に出てからは「孤独を武器」に、伊勢丹・鈴屋での新規事業展開や、台湾企業の経営者として数々の実績をあげてきたのです。本連載では、中野氏の新刊『孤独からはじめよう』に掲載されている「他人に依存せず、自立して、素の自分をさらけ出して生きる」51の人生哲学から抜粋。「一人で生きるのが当たり前の時代」に肩肘を貼らず、自分に期待し、颯爽と人生を楽しむ考え方を紹介します。

たった一人でも、生きていける

僕は戦時中の生まれです。

物心ついた時には、両親はそばにいませんでした。

親代わりに育ててくれたのは祖父母です。

時に厳しく、時に優しく、愛情深く接してくれた祖父母でしたが、そう長くは一緒に過ごせないとわかっていたからでしょう。

余計に僕を甘やかすようなことはしませんでした。

僕も幼いながら、その愛情の意味に気づいていたような気がします。

小学校高学年の頃に立て続けに祖父母が亡くなり、僕は祖母方の親戚の元に預けられました。

はるばる青森の弘前まで行ってみたら、ほとんど言葉が通じないことに愕然としました。

通信が発達している今とは比べ物にならないほど、当時は地域ごとの言葉に違いがあり、外国に突如放り込まれたかのような感覚だったのです。

知らない土地で知らない言葉に囲まれての生活に、最初はものすごく不安を感じたのを覚えています。

しかも、頼りにしていた親戚のおばあさんも、程なくして亡くなってしまったのです。

「頼りにできる人がいつでも近くにいる」という保証はどこにもないことを、十代そこそこにして知った僕は、世間の目からすると「かわいそうな子ども」だったかもしれません。

しかし、子どもの柔軟性というのはすごいもので、僕はいつの間にか新しい環境に溶け込んでいきました。

一つには、野球を通じて友達をつくりやすかったことがあります。

野球でナイスプレーを繰り出せば、自然と声をかけ合うコミュニケーションが生まれたのです。スポーツの良さだと思います。

このことから次第に、僕は新しい人生をいろいろな面に広げ、全身で楽しむ日々を送っていきました。