映画監督・脚本家 長久允(ながひさ・まこと)氏の著書、『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』の刊行を記念したトークイベントが、大阪で開催された。
ゲストに迎えたのは、映画監督の今泉力哉(いまいずみ・りきや)氏。「脚本どう書いてますか」をタイトルとして、真逆とも言える2人の脚本の書き方と、物語を作ることへの怖さが語られた。(文/飯室佐世子)

脚本の教室

「マブダチ」と「変な関係」

長久允(以下、長久):映画監督で脚本家の長久允です。
 最近『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』という本を出版しまして、映画『炎上』が公開中です。

 今日は、今泉監督と脚本の話をしましょうと。

今泉力哉(以下、今泉):映画監督の今泉力哉です。最近の作品は、1月から3月まで日テレで放映された『冬のなんかさ、春のなんかね』の脚本を担当しました。
 6月12日からはAmazon Primeで『クロエマ』という作品が配信になります。

脚本の教室

長久:おそらく、僕らの作品を両方見ている人たちからすれば、「物語のつくり方が真逆そう」と思われていると思うんですけれども。

今泉:確かに、そうですね。

長久:関係としては、僕としてはマブダチだと思っていますよ。

今泉:なんか変な関係ですよね。頻繁に会うとかめちゃくちゃ親しいとかではないんだけど、たまたま去年、制作会社が同じタイミングがあって再会して。

長久:ヤッホーって。おじさん2人がキャッキャッみたいな(笑)。

脚本の教室

今泉:でも、今回『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』を読んで思ったのは......誰ですか、長久さんに本を依頼した人は! 脚本のセオリーじゃない書き方をする人であろう長久さんに!

長久:(笑)。本当にね。

今泉:でも、セオリーの本はいっぱいあるんですよね。

長久:そうそう。僕的には「こういう書き方もありでおま!」っていう、王道じゃない書き方を本にしてみたんです。

今泉:意外と、自分もやってる方法が書かれていたりしました。我々に共通していることがあるとすれば、「自分から生まれるものが面白いと信じている」ということですかね。

まったく異なる、2人の書き方

長久:今泉さんの書き方、知りたいよ!
 というわけで、今日は2人の脚本を映しながらと思うんですけど。僕、Wordで横書きなんですよ。

今泉:えっ横書き!?

脚本の教室

長久:そう。で、一般的な脚本よりもかなり情報が多い。音楽のリファレンスもSE(効果音)も入れるし、へたっぴな絵コンテも全部入れる。
 僕、ぶつぶつ話しながら脚本を書くので、頭の中にある音をすべて書いてるんですよね。

今泉:長久さんは仕事でずっとCMの制作やっていたから、その影響もあるんですかね。アニメーションとかの作り方に近い気がする。
 僕は縦書きで、ト書き(セリフ以外の文章)がめちゃめちゃ少ない。

長久:思った! 少ない!

脚本の教室

今泉:あと、シーン終わりに「その表情」ってト書きを書きがちです(笑)。

長久:どういうこと? 俳優さんのその瞬間の表情をカメラで捉えてねってこと?

今泉:僕は自分の頭の中にある作品の完成形をそのまま作りたいわけじゃないんです。

 ストーリーを読んで、俳優さんが感じとって表現したものの方が面白い可能性がある。それをいろいろ先回りして、過剰に演出することで、潰したくないんです。僕が一人で考えられることよりも面白くならないとつまらない。自分も楽しみたいんです。

長久:それは、俳優部への信頼でもありますよね。それがあなたの良さですよ。

今泉:でも、長久さんみたいに緻密に脚本や絵コンテを書く人がいるせいで、今泉組をやってるスタッフがそういう現場を経験して戻ってくると、「今泉さん、サボってるんですか」って言われる(笑)。

長久:え! そうなの(笑)。でも、根本的に撮りたいものが違いますからね。

「怒り」か「尽きない悩み」か。何から書き始める?

脚本の教室

長久:そもそも、脚本を書き始める時に何からスタートしているのかを聞きたい。

今泉:長久さんは、本の中でも「怒り」とか「違和感」がきっかけになるって書いてますよね。

長久:そう。日常で自分が情緒不安定になる事項。ニュースを見てめっちゃ怒りが湧くとか、めっちゃ悲しい気分になるとか、ザワザワする感情を軸に、いてもたってもいられなくなって書き始める。

今泉:僕は、身近な誰かと話し合っても答えが出ない悩みや問いが生まれたら、そこから作るみたいな意識があって。

長久:答えが出ない問い。

今泉:例えば、「恋人と別れたらもう一生会えなくなる」って人がいるとするじゃないですか。「また友達みたいな距離に戻って、また会ったらいいんじゃない」と提案しても、本人は「一度恋人になったら無理」という。

 とすると、本当に大切な人と付き合うとか、特別な関係になるってなんでこんなに大事で大変なんだろうみたいな問いにつながって、それが執筆のきっかけになる。

長久:恋愛がテーマの作品が多いのは、そういう問いが多いから?

今泉:そうですね。恋愛に関する問いは普遍的だし、答えが出ないことばかりだから、作り続けられる気がします。

 逆に、長久さんは、恋愛は描かないんですか?

長久:うーん、あまり自分が興味を持てないのかも。今泉さんがたくさん作ってくれているから、「その役割、ありがとうございます」とは思っています。

今泉:見たいですけどね。あと、もうひとつの理由は、日本映画における恋愛描写の偏りも気になります。
 最近はだいぶいろんな恋愛映画が増えてきましたけど、俗に言う<キラキラもの>、つまり、高校生が主人公で、誰かが誰かを好きになって、どう結ばれるかを描く物語、や、余命ものがとにかく多くて。
 もっと付き合ってる2人の間の倦怠だったり、そもそも好きって気持ちがわからない、みたいな葛藤についても、もっともっと扱われていいと思うんです。

 だから、長久さんにも作ってみてほしいですけどね。恋愛って100人いたら100タイプあるから、個人的な物語こそ見たい。

長久:あ、でも、その想いは近いかも。僕も個人が作る物語こそ面白いと思うから。八百屋さんもアイス屋さんも、すべての人に脚本を書いてほしい。

作らざるを得ない。だけど、怖い。

脚本の教室

長久:はい、次のテーマ。「なぜ、作り続けるのか」なんですけど。

今泉:あ、これ僕は答えられない。だって、作らなくても生きていける側なので。

 逆に、長久さんはなんで作らざるを得ないんですか? ずっと書いていたいタイプじゃないですか?

長久:うん。旅行とか興味ないから、仕事休みなら家族との時間以外はずっと家で書いていたい。

 もうね、作らないとおかしくなっちゃうんですよ。現実世界がちょっときつすぎて、バランスが取れない。

今泉:きついですよね。まともじゃいられない、というか。

長久:たぶん、人よりちょっと感情が多いんだと思う。それに僕は社会人になってから15年ぐらい作っていない時期があったから、日常で感じた感情を現実で発露する機会がなかったんだと思う。

 物語を作るっていう行為は、過去の感情や辛かったことをエンタメ化して「まあまあ、おもろかったとしましょうや」って鎮静化していく行為じゃない。
 それを今は映画でできているから、まともでいられる。

今泉:なるほどなあ。

長久:今泉さんは?

今泉:僕は本当に、作らざるを得ない人ではないです。人生に芸術的なものがなくても平気な人って、一定数いるじゃないですか。僕もそっち側の人間だと思っていて。

 それがめちゃくちゃコンプレックスなんですけど、そういう自分だからこそ、作れるものもあると思うようにしてます。あんまり敷居が高くなくて、フラットに見られるものになればいいなっていう意識。

長久:ずるいな、なんか良さそうに見えるじゃないですか!

今泉:いやでも本当にそうなの。だって何もしなくていいなら、寝てたいもん。
 というより、作るのはずっと怖いんですよ。

おこがましい。怖い。それでも作り続けている

脚本の教室

長久:怖い?

今泉:僕は基本的に「誰かのために」作品を作ることを避けているんですよね。基本は自分自身のために作って、二次的に助けられる人がいたりとか、それでちょっと救われたり、心が軽くなる人がいればいい。

長久:本当? 本当にそう思ってる?

今泉:なんかね、これは誰かを救うと思って作るのって驕りだなって思った時に、怖くなったんです。

 長久さんって、自分が当事者じゃないことも題材にするじゃないですか。いや、本気で扱おうとしてるなっていつも思うんですけど、畏れ多さとか怖さってないですか。

長久:怖い。『炎上』でも、トー横の話を題材にすること自体、おこがましいと思っている。あとは、自分の娘が何か言われてしまうかもしれないって怖さもある。

 だけど、もう止められない。彼女たちのことを伝えようと思ったときに、自分ができることは映画を作ることしかない。

 だから、「やらざるを得ないものだから、やるしかないのである」と思って、目を瞑って走っている。そんな感じです。

今泉:優しい人ほど、誰かをこれで傷つけるんじゃないかと思って踏みとどまりますよね。
 でも、怖いと思いながらでも作った方がいいものも絶対ある。

長久:うん。

今泉:長久さんの作品から驕りを感じないのは、おそらく土台に「自分のため、自分を救うこと」が並行してあるからだと思う。

長久:そうかも。作るということは、自己救済なのかもしれない。

 その一方で、自分と同じように生きづらさを抱えている誰かに対して、「僕でもなんとかやれてるから、あなたも大丈夫!!!」というメッセージを送りたいのかもしれないな。

(おわり)