『上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』が刊行された。世界150万部超の『アイデアのちから』、47週NYタイムズ・ベストセラー入りの『スイッチ!』など、数々の話題作を送り出してきたヒース兄弟のダン・ヒースが、何百もの膨大な取材によって書き上げた労作だ。刊行後、全米でWSJベストセラーとなり、佐藤優氏「知恵と実用性に満ちた一冊」だと絶賛し、山口周氏「いま必要なのは『上流にある原因の根絶』だ」と評する話題の書だ。私たちは、上流で「ちょっと変えればいいだけ」のことをしていないために、毎日、下流で膨大な「ムダ作業」をくりかえしている。このような不毛な状況から抜け出すには、いったいどうすればいいのか? 話題の『上流思考』から、一部を特別掲載する。

「頭のいい人、悪い人の考え方」決定的な1つの違いPhoto: Adobe Stock

頭のいい人は「問題の上流」にさかのぼる

 ジョン・トンプソンは仕事を半分引退してカナダのオンタリオ州ゴドリッチで暮らしていた。彼は1日2回の緑内障治療の目薬を忘れがちだった。そこで台所の流し台の上の窓枠に目薬を置くことにした。そうすれば朝コーヒーを淹れるときに必ず目に入る。

「窓枠の東側に置いて、朝の分だとわかるようにした」と言う。「朝目薬を差したら、今度は西側に置いておく。そうすれば朝の目薬がすんだことと、夜になったらまた差さなくてはならないことがわかるからね。夜の分が終わったら、また東側に戻しておくのさ」

 窓枠システムが、トンプソンの問題を解決した。

 リッチ・マリサもふだんの生活で「上流」のひらめきを得た。

「私がいつも電気をつけっ放しにするのを、妻は不満に思っていた。とくに、家を出入りするときの玄関の電気だね」とマリサは言う。

 マリサはニューヨーク州イサカの近くに住み、アプリ開発の仕事をしている。玄関の電気は夫婦間に小さな摩擦を生んでいた。ささいではあるけれど、長年の口論のタネになるたぐいの問題だ(「またトイレのフタが開けっ放しじゃない!」)。

 だがマリサは、口論を防ぐことができると気がついた。

 離婚を申請すればいい。

 ごめん、冗談だ。マリサが実際にやったのはこれだった。

「状況に向き合うことにした。タイマー付きの照明スイッチを買ったんだ。ボタンを押すと、5分だけ明かりがつく。その後自動的に消えるから、もう問題ではなくなった」

上流思考を「日常」に生かすには?

 僕は研究でそういった物語を探した。起こった問題にただ対応するのをやめて、問題を防止した人々の物語だ。そして驚くほど感銘を受けたので、自分の生活も見直すことにした。日常的なイライラのタネを、ちょっとした上流の工夫で解決できないかと考えた。

 たとえば、以前僕はノートパソコンの電源コードの抜き差しに四苦八苦していた。立派なオフィスの立派なデスクで働くよりも、カフェで働く方がはかどるのだ。だからいつもパソコンのコードをオフィスのコンセントから引き抜いて持ち運び、出先のコンセントに差していた。

 そこで解決策として──心の準備はいいかな──2本目のコードを買った。

 いまでは1本はデスクに備えつけにして、もう1本はバックパックに入れっ放しにしている。

 とても簡単な話だ。必要なのは問題に気づいて、小さな計画を立てることだけ。

 だが僕がインタビューした人たちにそういう実例を挙げてほしいと頼むと、思いつくのに苦労する人が多かった(別に自慢しているわけじゃない。僕もコードの抜き差しを何年も続けていた。やっと腰を上げて解決しようという気になったのは、そう、この本を書くことになったからだ)。

(本稿は『上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』からの抜粋です)