『上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』が刊行された。世界150万部超の『アイデアのちから』、47週NYタイムズ・ベストセラー入りの『スイッチ!』など、数々の話題作を送り出してきたヒース兄弟のダン・ヒースが、何百もの膨大な取材によって書き上げた労作だ。刊行後、全米でWSJベストセラーとなり、佐藤優氏「知恵と実用性に満ちた一冊」だと絶賛し、山口周氏「いま必要なのは『上流にある原因の根絶』だ」と評する話題の書だ。私たちは、上流で「ちょっと変えればいいだけ」のことをしていないために、毎日、下流で膨大な「ムダ作業」をくりかえしている。このような不毛な状況から抜け出すには、いったいどうすればいいのか? 話題の『上流思考』から、一部を特別掲載する。

「頭がいい人」と普通によくいる人の明白な差Photo: Adobe Stock

「部分」を見ているから失敗する

「システムについて考えるときは、システムを考えるそもそものきっかけになった問題だけを見ていてはいけない。システム全体を俯瞰できる視点に立つことも大切だ」と、生物物理学者でシステム思考の提唱者のドネラ・メドウズが書いている。

 メドウズはこう続ける。

「またとくに短期的に見られることだが、システム全体の利益になる変化が、システムの一部の利益に反するように見える場合があることを知っておかなくてはならない」

 メドウズが言っていることの痛ましい例を挙げよう。

 2009年7月のこと、グーグルの若手エンジニアがセントラルパークを通り抜けようとしたとき、頭に樫の木の枝が落ちてきて脳に損傷を負い、体に麻痺が残った。

 これは不幸な不測の事故だと思われていたが、そうではなかった。のちにニューヨーク市の会計監査官スコット・ストリンガーが、市が訴訟を解決するために支払ってきた和解金について調べ始めたところ、枝の落下が絡む訴訟が異様に多いことに気がついた(このエンジニアの訴訟は1150万ドルで和解している)。

 不思議に思ったストリンガーは調査を進め、数年前から経費削減の一環として樹木剪定の予算が削られていたことを突き止めた。「維持管理面で節約したつもりのお金が、訴訟で消えていたんです」と、ニューヨーク市政策担当監査官補デイヴィッド・サルトンストールは言う。

頭がいい人は「パターン」を捉える

 ストリンガーの会計監査室は「クレイムスタット」というプログラムを開発した。ストリンガーが2014年に説明した言葉を借りれば、クレイムスタットは「コストのかかる問題が起こりそうな分野を、数百万ドル規模の訴訟を起こされる前に特定するための、新しいデータ分析ツール」である。

 そして、市を相手取って起こされた、年間約3万件に上る損害請求を地図上に表してデータベース化し、パターンを調べてみた。

 市は公園での子どもの負傷に、過去数年間で2000万ドルもの和解金を支払っていた。一例として、ブルックリン区のある公園のブランコが原因で、何件もの訴訟が起こされていた。ブランコが低すぎるせいで、2013年だけで5人の子どもが足を骨折していた。

「ただ公園に足を運び、ブランコの高さを15センチほど上げるだけで、大きな問題を解決できたはずです」と、サルトンストールは言う。「なのに誰もそうしようとは思わなかったんです。……データを集め始めると原因が判明し、そのほとんどがそれほど複雑でない方法で解決できるとわかりました」

 メドウズが「部分」の利益と「全体」の利益は相違すると言ったのは、まさにこのことだ。

 剪定の予算を削れば経費削減になり、公園課にとっては喜ばしい。だが結局は、落ちてきた枝でケガをした罪なき人たちに、削減額をはるかに上回る賠償金を支払う羽目になる。関係者にはこのつながりが見えていなかった。ストリンガーのチームがデータを収集し分析して、初めてパターンが明らかになったのだ。

(本稿は『上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』からの抜粋です)