本書では、クラシック音楽を、まずは読んで楽しんでいただきたい、と考えました。世界共通の言語である「音楽」は、どのようにつくられてきたのか。ドレミの音階や、メディアとしての楽譜がどのように誕生し、音楽がどのようにして広がっていったのか。そこまで遡って、まとめています。

 また、音楽家の役割や名曲が生まれた背景には、キリスト教の誕生や、王侯貴族の没落とブルジョワの台頭、産業革命、民族自決運動、ジャポニスムなど、様々な社会・経済の動きが色濃く反映されています。音楽というフィルターを通じて、新たな世界史の見方もできるのが面白いところではないかと思い、意識的にそうした背景の解説も多く盛り込んでみました。

 なかでも紙幅を割いてご紹介しているのは、ベートーヴェンについてです。彼は、ハイドンやモーツァルトといった古典派のスタイルを受け継ぎつつも、多くの革新を起こしたイノベータ―だった、と私は思います。それは、後のロマン派の音楽家たちを、自由に解き放つための橋渡しともなりました。

 本書では、彼の功績を「3つのイノベーション」として整理しつつ、背景にあった市民革命や、印刷・楽器制作といった産業技術の進展にも触れています。ベートーヴェンは世界的に人気の高い作曲家で、演奏回数もモーツァルトと1位、2位を争うほどですから、生で聴くチャンスが多いですし、ベートーヴェンの音楽をより味わい深く楽しめるエピソードを盛り込んだつもりです。また、日本では年末の風物詩となっている“第9”が、海外ではあまり演奏されない理由も紹介しています。

 私自身が普段、仕事でお付き合いのあるビジネスパーソンの方から尋ねられるトピックを思い出し、クラシック音楽にそれほど詳しくない、演奏会に一度も行ったことがない、という方にも楽しんでいただけるような内容を目指しました。クラシック音楽については専門家の先生方による素晴らしい本がたくさん出ていますので、興味あるトピックがあれば、ぜひ先生方の本を手に取っていただければと思います。

 もちろん、私の本音としては、ぜひ演奏会へ出かけて、ライヴを観ていただきたいと願っています。数百年も生き続けてきた音楽の世界は、言葉だけでは到底表すことができません。偉大なる先人の遺した「音」のメッセージは、仕事においてもっとも大事な想像力を刺激してくれること間違いなしです。

 本書をきっかけに、ひとりでも多くの皆さまがクラシック音楽に興味をもち、楽しんでいただくことができましたら、このうえない喜びです。

2018年8月 松田亜有子

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