『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
「〇〇を知らない人は教養がない」と教養のある人が言うとは思えないのですが、読書猿さんは教養についてどのようにお考えになりますか?
「私たちを自由にするもの」。それが教養です。
[読書猿の回答]
私が採用している教養の定義は「運命として与えられた生まれ育ちから自身を解放するもの」です。あれやこれやの知識を欠いていることは、このことに比べれば何ほどでもない、と思います。
事実として、遺伝子や生育環境は、その人の考え方や行動、能力などを通じて、その後の人生にとても大きな影響を与えます。これらは自分で選びようがなく、運命として与えられるものだと言えます。
しかし、こうした運命に抗おうとする思想や人もまた、古くから存在しました。たとえば古代ギリシャでプラトンと同時代人だったイソクラテスという弁論・修辞家がいます。
当時の常識では、貴族しか徳(アレテーαρετη)を持っていない、だから貴族でないと政治に携わることができないという考えが主流でした。でもそこで「徳は教えることも、学ぶこともできる」と言ったんです。生まれ育ちによって決定されるんじゃなく、自分で学習することで獲得することができるんだと。
今日、私達はイソクラテスの時代よりも、遺伝子や生育環境が人間に与える影響がどのようなものかを知っています。そしてヒトは知ることで、自分の持つ弱点や課せられた制約をいくらか緩和することができるし、自分だけではできなくても、そうした制度や環境をデザインすることで、そうしてきました。
自身の弱点や制約に対抗する知恵や工夫を、私達は知ることで開発することも、学ぶことで手にすることもできる。こうして私達を自由にするものを、私は教養と呼びたいと思います。