
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第98回(2025年8月13日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
漫画は売れないが
文才を感じさせる嵩
いよいよ1960年代へ――。
タイトルバック開け、月日は流れ7年後、1960年(昭和35年)となっていた。
その前のアヴァンがちょっとよかった。
嵩(北村匠海)はのぶ(今田美桜)に、実は黒板に書いたスケジュールは嘘であることを告白。のぶは代議士秘書をクビになったことを伝えた。だが、のぶは鉄子(戸田恵子)から代わりの職を紹介してもらっていたので、「お先真っ暗だね」と嵩が言うが、実際のところは経済的にはそんなに心配はなさそう。
問題は嵩で、漫画がなかなか売れない。また誰にも求められない『メイ犬BON』をせっせと書いている。このとき嵩がつぶやく一節がいい。
「あなたがゲッソリしてもう死にたいと思うとき、あなたをどうしても微笑させるのが生きがいです」
のぶが、戦後、「生きちょってえいがやろか」と苦悩したとき(第63回)、嵩は彼女を励ました。BONは自分だと嵩が言っていたから、たぶん、このフレーズはのぶのことだろう。このフレーズを聞いて、のぶはそっと微笑む。
史実ではどうかわからないが、「なんで売れないかなあ……」とこぼす嵩は絵よりも文才がある気がするのだが……。