小江戸川越の極小蔵が醸す
フレッシュな濃醇旨口酒
江戸情緒を残す町並みで人気の埼玉県川越市は、県内一の観光客数を誇り、蔵の街を名乗る。
だが、2000年に最後の酒蔵が廃業。これを憂いた有志が酒蔵復興運動を起こし、飯能市の五十嵐酒造の協力を得て、07年に新しい酒蔵が誕生した。
銘柄は最後の蔵の酒名を継ぎ、小江戸鏡山酒造として始動。新蔵は醤油蔵の敷地内にあり、面積はテニスのインコート1面分という極小蔵。実は復興に共感した松本醤油商店の店主が、土地と水の提供を申し出たのだ。
蔵元に抜擢された五十嵐酒造の次男、五十嵐昭洋さんは酒造と別の道を歩んでいたが、父からの命で酒蔵の立ち上げに奔走。まず決めたのは酒造りの方針だ。
味は濃醇旨口、地元米を中心に小仕込み。麹は伝統製法。搾りはもろみを袋に入れて搾り、瓶火入れ、無濾過が特徴。温度調整機能を完備し通年で醸す酒は、フレッシュで香りや甘味、酸味の利いたメリハリある酒として評判を呼ぶ。
昭洋さんは原料米にも注力し、県が開発した酒米さけ武蔵の栽培を市内9軒の農家と契約する。酒造適性に優れた品質を目指し、県の農林部と全農から技術サポートを受ける仕組みを考えた。
そのかいあって、19年に県内初、さけ武蔵で醸した大吟醸が全国新酒鑑評会で金賞を受賞した。苦難は多いが明るく乗り越える昭洋さんは地元で一目置かれ、川越の一等地にある老舗酒屋から運営の依頼も。
平成生まれの極小蔵が、田んぼから街へ、川越を明るく醸す。
●小江戸鏡山酒造・埼玉県川越市仲町10-13●代表銘柄:鏡山 純米大吟醸、鏡山 斗瓶取り雫酒、鏡山 純米吟醸、鏡山 純米酒、鏡山 再醸仕込み●杜氏:山田 真●主要な米の品種:さけ武蔵、雄町、山田錦