これを受け、為替市場では125円近辺が「黒田ライン」と呼ばれ、何かと意識されてきた。このことは、市場参加者としては一定の意味を持つとしても、以下の三つの理由から、この水準に実質的な意味はないと考える。

(1)当時のコメントは黒田総裁が積極的に発信したわけではなく、質問に答えただけである。

(2)議論になっていたのは実質実効レートであって、ドル円の(名目レートの)レベルではない。

(3)そもそも為替政策は日銀の管轄ではなく、財務省の管轄である。

 上記の三つ目の理由から、円相場に絡めて日銀の指し値オペに注目が集まるのも、日銀としては困った問題だろう。日銀は21年3月の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール政策について、10年金利の変動幅はプラスマイナス0.25%程度であることを明確化した。そして、本来的に自らの政策の範疇ではない円相場が、円安になっているからといって、日々のオペレーションで上限を変更するのは困難であると考えられる。

円は既に歴史的な割安圏だが
円安基調が続く可能性は高い

 最近では、当局の円買い介入の可能性を巡る議論も散見され始めたが、可能性は低いだろう。市場から売るための円を調達すれば良い円売り介入と異なり、外貨準備を取り崩す円買い介入を行うのは容易ではない。

 そもそもイールドカーブ・コントロールで長期金利まで低水準に抑え込もうとしているのに、ドル売り・円買い介入を行うというちぐはぐな政策を、米国が支持するとも思えない。自由な資本移動を維持したままで、金融政策の独立性と為替相場の安定という両方を得ることはできない。

 円が既に歴史的な割安圏にあることは事実だ。だが、ここまで述べてきたように日本の現在の経済構造と、世界を取り巻く状況を鑑みると、まだ円安基調が続く可能性は高いだろう。

(JPモルガン・チェース銀行 東京支店 市場調査本部長 マネジング・ディレクター 佐々木 融)

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