構造的円安と循環型円安を混同して不安視する愚を問うPhoto:PIXTA

ドル高円安が120円台で進行している。かつて円高恐怖症にさいなまれた日本では、最近は円安も不安視される。そして「実質実効レートで50年来の円安」が日本の衰退の象徴であるかの論調が呼応し合っている。しかし、構造的円安と足元の米金利上昇に沿う循環的円安を混同するようだと、ビジネスや投資の判断を誤りかねない。(田中泰輔リサーチ代表 楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー 田中泰輔)

円高も円安も
怖がる日本

 ドル円相場がついに125円台まで到達した。米金利上昇に沿う典型的な循環現象だ。FRB(米連邦準備制度理事会)がまだまだ利上げを進める流れであり、基調としてはまだ上値を目指すだろう。

 日本では、円高への恐怖心が強い。一方、最近は円安を恐れる声も出ている。市場が一方向に動くと、上でも下でも心配性が首をもたげるのはいつものことだ。

 コロナ禍後の需給ミスマッチに、ウクライナ有事も重なって、石油など資源、小麦など農産品の輸入価格が上がる中、円安が追い打ちをかけるという不安はうなずける。

 ただし、日本株は今も円安になると上昇しがち。つまり、円安を好感している。円安はかつてほど輸出を促進する効果はないが、海外展開する企業や投資家の利益が円安による為替差益分として上乗せされるなどメリットは小さくない。

 円安を心配する論調には、円の実質実効レートが50年来の安い水準へ下落し、日本の実力低下の証しとするものがある(実質実効レートについては後段で詳述する)。しかしこの漠然と単純化された日本衰退論には違和感がある。そして、この構造的円安と、米金利連動の循環的円安を重ねて不安視することは、政策、事業、投資の実践上無駄であり、有害ですらある。

 それはなぜなのか。次ページからひもといていこう。