「リスクオン時は株高=円安」という基本的な図式は、市場関係者なら誰もが知る株価と為替の関係性だ。だが、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長はこの相関が今、崩壊に向かっていると指摘する。特集『スガノミクスの鉄則』の#10では、No.1為替ストラテジストとして知られる同氏に、そのメカニズムを解説してもらった。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
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リスクオンなら「株高=円安」
この常識が崩れてきている
アベノミクスの最も大きな成果の一つに、大規模な金融緩和による円安・ドル高を挙げる声は多い。では、スガノミクスの下で為替相場はどのように動くのだろうか。
為替相場は各国の金融政策や国内外の経済指標、地政学リスクなどあらゆる要素を織り込みながら形成されるが、方向性を捉える上で押さえておくべき最も基本的な考え方の一つに、「リスクオン」と「リスクオフ」がある。
要するに投資家がリスクを取ってもよいと考える局面か、そうでないときか。景気の見通しが明るいリスクオンの場合は、リスク性の高い資産である株が買われて株価が上がり、ドルや円、ユーロといった主要通貨が売られやすい。そして、リスクの高い高金利通貨や新興国通貨などが買われやすくなる。
一方、株安が進むリスクオフの局面ではこれが逆回転し、ドルや円、ユーロが買われる半面、新興国通貨や高金利通貨が売られることになる。円とドルは、このリスクオンとリスクオフの大きな流れにおいては、同じ方向を向く性質の通貨だ。ただ一般的に、リスクオンで弱くなるときは円の方がドルより弱く、リスクオフで強いときはより強くなりやすい。
JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は「安倍政権下で円相場が安定した大きな要因として、良好な日米関係が維持されていたことは見逃せない」と指摘。日米関係悪化は円高圧力を強め、リスクオフを招きかねないため、「今後は菅(義偉)首相の外交手腕が問われることになる」と話す。
この先コロナ禍が終息するかどうか、米大統領選挙の動向など多くの不透明要素があるが、多くの人にとって重要な為替相場の長期トレンドを捉える上で大切なのは、目先のリスクオン、リスクオフの動きに振り回されず、大きな流れを読み解くことだ。そして佐々木氏によれば、足元の為替市場ではまさに、大局観を左右しかねないある変化が起きている。
それは、リスクオンの際は「株高=円安」という前述した数年来の常識が、崩壊に向かっていることだ。なぜ、そんな変化が今、起きているのだろうか。この転換点を踏まえ、円相場の先行きをどのように見通すべきなのだろうか。