家族であるペットと人間が快適に暮らせるようにと、ペットのためにお金を使う人が増えている。それにともないペットビジネス産業もマーケットが成長。その将来性を見込んで、新たなプレーヤーが異業種から新規参入し、ペットビジネスの世界も大きく変わり始めている。これまではその多くが個人経営者だったペットビジネスの領域で、どんな企業がどのような新しい価値を提供しようとしているのか。また新規参入の異業種との連携は、ペットビジネスの未来をどう変えていくのか。獣医師の資格を持ち、自らが経営するJPRグループで新たなペットビジネスの可能性を探る生田目康道氏が著書『「獣医師企業家」と「プリモ動物病院」の挑戦 QAL経営』で語る「人と動物が共に幸せに暮らせる未来」のために、これからのペットビジネスが進むべき道を探ってみた。(取材・構成/久遠秋生)
深化するペットビジネスから遅れを取る動物医療
――生田目さんの著書「QAL経営」では、今のペットビジネス市場は全体的に深化、ペットが生まれてから亡くなるまで、あらゆるモノやサービスが提供されていると語られています。そして、それがマーケットの拡大を後押しする中で、医療の分野のみが取り残されていると指摘されています。具体的に、動物医療の分野ではどのような遅れがあるのでしょうか。
生田目康道(以下、生田目) 簡単に言うと、ほかのペットビジネス産業がより便利に、より簡単にモノやサービスを享受できるようになっているのに、動物医療では「不便」「病院にアクセスしにくい」「値段がよくわからない」「相談しにくい」「よい病院が見つけられない」という課題がまだ残ったままなんです。
私は、もっと動物病院に行きやすくなる世の中をつくりたいと、これまで多くのチャレンジをしてきました。獣医師でありながら経営に専念することで、神奈川県と東京に8つの動物病院・医療センターを作り、病院間での連携を深め、専門医療にも柔軟に対応しています。また、地域の救命救急の拠点となる医療センターもこの夏オープン予定です。
一方で、獣医師や動物看護師の働く環境を整えることで、よりよい治療が提供できるような整備も進めてきました。
しかし、動物医療の専門領域だけでは、世の中の仕組みから遅れを取っている現状に大きな変革を起こすのには限界があるというのも実感しています。そこでそれらを解決するために、異業種と連携したまったく新しいアプローチに挑戦しているところです。
博報堂系列で事業開発を手がけるスタートアップスタジオ、quantumと共同でジョイント・ベンチャー「QAL startups」を設立。飼い主の利便性を向上する「会計待ち不要のオンライン決済システム」や、「動物病院の事業承継のマッチングプラットフォーム」などを開発しています。