進化する動物病院――飼い主とペットにとって本当によい動物病院とは

ペットの家族化により、動物病院の重要性はますます増している。ペットの健康と長生きを願う飼い主のニーズに、今の動物病院はどこまで応えることができているのか。専門医療への特化、DXによる快適な診療など、新しい変革が進むと同時に、飼い主は数ある動物病院の中で、「わが家のペットにとって最もいい病院とは?」という迷いに直面している。獣医師の資格を持ちながら、プリモ動物病院グループの経営者として手腕を振るう生田目康道氏が、著書『「獣医師企業家」と「プリモ動物病院」の挑戦 QAL経営』で語る、人とペットの幸せを実現する動物病院とは? 動物病院選びのアドバイスも合わせて聞いてみた。(取材・構成/久遠秋生)

緩やかに増加傾向にある動物病院の数

――生田目さんが著書「QAL経営」で言及されているように、人とペットの幸せな暮らしには、動物病院の存在が大きな役割を果たします。動物病院のあり方も大きく変化しているとのことですが、最近の動物病院の現状について教えてください。

生田目康道(以下、生田目) まず全国に動物病院がどれくらいあるのかをお伝えしますね。

 農林水産省が集計したデータによると、2021年の全国の動物病院数は1万6478施設(「飼育動物診療施設の開設届出状況」より)です。

――動物病院は、そんなにたくさんあるんですね!

生田目 ただし、この数字には一部廃業した動物病院数が時間差で反映されていないケースもあるようで、実際の動物病院の数はここまで多くはなさそうです。医療メーカーやペットフード会社からの情報をもとに推察すると、実数は1万施設ほどではないでしょうか。数的には緩やかな増加傾向にあると言っていいでしょう。

専門化・細分化する動物病院

――そうなんですね。それでも1万施設という数は、かなりたくさんあるな、という印象です。生目田さんは、欧米流の「経営と診療を分離した動物病院経営」を行っていらっしゃいます。しかも、ご自身は獣医師でもある。そのような経営スタイルは日本でも増えているのでしょうか?

生田目 いえいえ、私のように獣医師でありながら経営に専念しているのは、日本ではかなり珍しいケースです。

 もともと日本の動物病院は、ほとんど獣医師が院長であり経営者でもある、という経営スタイルが主流でした。これは今でも多くの動物病院が踏襲しているスタイルです。

 しかし、ペットブームの到来とともに、90年代後半から一部の動物病院が大型化してチェーン展開を始めます。また、近年は投資会社がオーナーとなり、チェーン展開する動物病院も出てきています。

 さらに2000年代になると、専門特化した動物病院が登場し始めます。それまでの動物病院はあらゆる動物の内科も外科も全部診るというのが普通でした。

 そこに歯科、眼科、皮膚科、循環器科などのように診療科目に特化した動物病院が増えてきたんです。それぞれの専門病院がひとつのビルにまとまった、総合病院のようなものもあります。

 専門性への特化が進んでいるのは、診療科目だけではありません。犬、猫、鳥というように動物の種類を限定したり、一般診療は行わず予防接種や健康診断だけを行う動物病院もあります。また、往診専門の動物病院も飼い主のニーズが高い分野です。

――飼い主のニーズに合わせてどんどん専門化、細分化が進んでいるということですね。

生田目 そうですね。例えば、私たちが今夏にオープン予定の「神奈川どうぶつ救命救急センター」(相模原市)は、地域に救命救急専門の動物病院が必要だという思いから作ることにした施設です。救命救急病院はERの専門スタッフや設備が必要です。専門的な治療技術に加えてスピードが求められ、専門外の動物医療スタッフでは対応が難しい分野といえるでしょう。

 それだけにスタッフや設備を整えるのはハードルが高く、ニーズに対して十分な救命救急動物病院が全国的に揃っているとはいえない状況です。

 救命救急病院というと、夜間に診察してくれる夜間病院と同じという誤解を受けがちですが、その性質は大きく違います。

 夜や週末など、かかりつけの動物病院が休診のときも診察をしてくれるのが夜間病院です。多くの場合、シフト制の獣医師が1人いるだけなので、救命救急のような重大なケースには十分な対応が難しいはずです。

――専門化や細分化のほかに、最近の動物病院ではどのような進化がみられるのでしょうか。

生田目 動物医療のほかに、付帯するサービスを手がけるケースが増えています。トリミング、ペットホテル、フードなどの物販などは、多くの動物病院が行っています。

 目新しいところでは犬のパピー教室。犬の幼稚園のようなものですが、そういうサービスを提供する動物病院もあります。