「アンケートなどでは『カメラに見守られて安心』と答える人が多い。でも不安がくすぶり続けているからこそ、カメラも増え続ける」。消えない不安の原因は「松本死刑囚がなぜサリンの散布を指示したのか、動機を解明できていないから」と森さん。「司法は精神的に崩壊していた可能性が高い松本死刑囚を治療して語らせる選択をせず、『極悪人は処刑を』と一審だけで死刑を確定させた。だからこそオウムはまだ終わっていない」

NHKスペシャルで紹介された重要な手紙

 1996年9月、麻原の側近信者で諜報活動の渦中にいた井上嘉浩が検察側証人として麻原法廷に出廷した。彼が証言したリムジン謀議について弁護団が反対尋問を行おうとしたとき、「井上証人は偉大な成就者で、彼に反対尋問など許されない」と被告席から発言して尋問への妨害を続け、最後には井上に「すまないが、飛んでみてくれ」と意味不明の呼びかけをした麻原は、これ以降はほぼ沈黙し、一審弁護団との意思の疎通も中断した。

 つまり実質的な裁判はこの日で終了した。言い換えればこの日を境に、麻原の精神状態は急激に悪化した。

 だからこそなぜ彼がサリンを撒けと指示したのか、その理由がいまだにわからない。でも動機が不明なままでは、さすがに裁判を終結できない。そこで裁判所は、間近に迫った強制捜査の目をくらますことがサリン散布の主要な目的だったと結論づけた。指示を下したのは麻原だ。その根拠とされたのが、事件当時は諜報や謀略活動の中心にいた井上嘉浩が証言したリムジン謀議だ。これを前提にしないことには、地下鉄サリン事件における麻原の共謀共同正犯は認定されないのだ。つまり麻原は、自分を決定的に不利な立場へと追い込む証言に対しての反対尋問を、なぜか意味不明の言葉で妨害したということになる。

 いずれにせよ、こうして麻原の死刑は確定した。

 今年5月、オウムをテーマにしたNHKスペシャル『未解決事件 File.02』が放送された。昨年末に特別指名手配犯の1人である平田信が出頭したこともあって、前編と後編で合わせて4時間近い特別枠の番組は、放送前からかなりの話題になっていた。