JA全農の大手コンビニへの資本参加に関連して、JAならけんの中出篤伸会長が全農の役員の地位を乱用してインサイダー取引を行っていたことが分かった。驚くべきことに、中出氏はインサイダー取引の事実を認めた後も、農協の会長を続投しようとしている。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
絵に描いたようなインサイダー
全農役員として知り得た公表前情報で取引
「仮にも金融機関である農協のトップがインサイダー取引を行ったことを認めて謝罪した後も会長に居座ろうとしている。非常識にも程がある」
JAグループ幹部が“身内”を見限って吐き捨てるように言った。身内に甘い傾向があるJAグループの中で、特定の幹部への批判が高まるのは異例のことだ。
矢面に立っているのは奈良県全域を管内とする大型農協、JAならけんの会長である中出篤伸氏だ。6月8日朝、ダイヤモンド編集部が中出氏によるインサイダー取引について報じると、さすがに認めざるを得ないと思ったのか、同日午後、「軽率な行動をとってしまった」とインサイダー取引を行ったことを認める謝罪文を農協のホームページに掲載した。
中出氏によるインサイダー取引の手口はシンプルだ。
伊藤忠商事が大手コンビニエンスストア、ファミリーマートに対しTOB(株式公開買い付け)を実施した2020年7月、JA全農の役員だった中出氏は、TOB行使が公表される3時間半前にファミリーマート株式を350万円分買い付け、公表後に売却。この取引で120万円超の利益を得たというものだ。
TOBにより伊藤忠がファミリーマートを完全子会社化した後、全農と農林中央金庫がファミリーマート株式の一部を取得し、資本参加することが決まっていた。中出氏は全農役員として知り得たTOBに関する公表前情報を基にインサイダー取引を行ったのだ。
証券取引等監視委員会は今年6月3日、インサイダー取引の事実を確認し、167万円の課徴金を納付させるよう金融庁に勧告したが、課徴金納付命令の対象者については「A法人の役員」として匿名で公表していた。
これが中出氏だとは、全国の農家(農協の正組合員)は夢にも思わなかっただろう。ファミリーマートへの出資は農業所得の増大を掲げた全農改革の目玉の一つだった。その大義の裏で全農役員が私腹を肥やしていたことになる。