2017年4月10日、米カリフォルニア州サンバーナディーノ郡で起きた学校での銃乱射事件後、子どもと再会する両親2017年4月10日、米カリフォルニア州サンバーナディーノ郡で起きた学校での銃乱射事件後、子どもと再会する両親 DAVID MCNEW / GETTY IMAGES

「あり得ないこと」と思いたいところですが、これが私たちが生きている社会の現状です。子を持つすべての父と母は日々、最悪の宝くじを引いているも同然なのです。

 2022年5月24日(水)昼頃、米テキサス州ユヴァルディで生徒19人と教師2人が死亡するという恐ろしい銃撃事件が起きました。そしてその事件の翌朝、妻と私(ダン・シンカー)は6歳になる息子を学校の前まで送り届け、校舎の中へ入って行くのを見届けました。

 子どものマスクのつけ方やバックパックの位置を直すために、私は彼の鼻筋に沿ってマスクを指でなぞってぴったりと装着してあげ、妻は彼のおくれ毛を耳にかけてあげました。そして私たちは彼を抱きしめたのですが、その日はなかなか抱きしめた手を放したくないという思いでした。とうとう息子は身をよじって私たちから離れ、校舎の中へと入っていきました。その日、外に残された親たちの間にはいつもとは比べものにならないくらい、重苦しい沈黙が流れていました。それぞれの親は、子どもを学校に送り出すのに後ろ髪をひかれる思いに満ち、ぐったりとしていました。

 おそらく…というより確実に、どの親も同じ疑問に強くとらわれていたに違いありません。「うちの子は、無事帰宅できるのだろうか」と。

 10年前にも、同じようなことがありました。どんよりとした12月のある日、校庭を埋め尽くした親たちは沈黙し、亡霊のように立ち尽くしていました。その当時起こった銃乱射事件が発生したサンディフック小学校はコネチカット州にあり、私たちの子どもが通っていたシカゴ郊外の学校からは何千マイルも離れているので影響はないとは言えるかもしれません。ですが、そんなことは関係ありません。

 終礼ベルが鳴ったときに、自分たちの子どもたちが無事校舎から出てくるのをいち早く確認できるよう、多くの親が早めに迎えに来ていたのです。もちろん、子どもたちが無事であることは分かっていたのですが、確信が持てなかったに違いありません。陰うつな冬の日差しに瞬(まばた)きしながら、出てくるまでにかなり時間がかかっていることに不安を覚えながら、私たちは出てきた子どもたちを抱きしめた記憶はまだ鮮明に残っています。