ビジネスパーソンの多くが、「今までにない発想でイノベーションを起こすには」「他社にない斬新な新規事業を作るには」と考えあぐねているのではないだろうか。多くの経営者や経営学者が、「発想力は、移動した距離に比例する」といった旨を指摘している。だから忙しいビジネスパーソンこそ、意図的に時間を作って国内外を旅するべきだ。それが他者との差別化につながる。(著述家 山中俊之)
デカルト、モーツァルト、ゲーテ
世界史的な偉業は「旅」から生まれた
デカルト、モーツァルト、ゲーテ――。3人の共通項は何か。
いずれも哲学、音楽、文学の分野で卓越した功績を残した、世界史的な偉人であることに異存はないだろう。この3人に共通するのが、「旅」をとても重視していたことだ。
モーツァルトは、36年という短い人生のおよそ3分の1を旅に費やしたといわれる。父親のレオポルト・モーツァルトが「旅は視野を広げる」と確信していたので、息子ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは子供の頃から、演奏旅行を兼ねた旅に連れ出されていた。
当時の移動は馬車。飛行機はおろか自動車もない時代。異国訪問は、相当の体力とお金が必要だった。自分の息子が神童であることを認識した父レオナルドは、旅を通じて息子を音楽家として成長させる覚悟だったのだろう。
モーツァルトは大人になっても旅を続けた。ヨーロッパ各地の宮廷などから引っ張りだこだったことも理由だが、幼い時から旅してきたモーツァルトが、旅で多くのインスピレーションを得て、創作活動に役立てたことは想像に難くない。
デカルトは、従軍目的を含め、オランダやドイツを遍歴し、最後はスウェーデンで客死する。哲学者というと研究室にこもり思案にふけっているように思われがちだが(実際にそのような哲学者も少なくはないだろう)、デカルトは行動派だ。従軍までして戦争を体験しているのだから、その哲学は豊富な実体験に基づいている。
ゲーテは、作家として名を残したが、実は科学者の顔も持つ。各地を鉱物や植物を採集して回り、鉱物や結晶の標本は1万8000点、植物の標本は1300種に上ったそうだ。また、「旅が人生の目的である」との名言も残している。
3人とも、ずっと自宅にこもって創作しているわけでは決してなかった。むしろ普段の生活領域から抜け出て、新しい刺激を得て、それを創作のヒントにしてきた。世界史的な偉業は、旅から生まれたと言っても過言ではないだろう。