「わかりやすい敵」を作るとラクで気持ちがいい

「犯人=被害者」は己の不幸な境遇に対して激しい怒りや憤りを覚えている。本来はその感情は、不幸な境遇をつくりだしている直接的な原因や、かつ構造的な問題に対してぶつけられるべきだ。

 しかし、ヘイトクライムに走る人はそういう発想にならず、ネットやSNSの世界で発信され、多くの人たちが憎悪を向けている「わかりやすいターゲット」を目の敵にする。

 在日コリアンの家や建物をいくら燃やしても、日本の貧困問題が解決しないことは明白だ。安倍元首相を殺害しても、「世界平和統一家庭連合」が崩壊するわけがないことも、ちょっと冷静になって考えればすぐにわかる。

 にもかかわらず、彼らは「わかりやすいターゲット」を設定して、この人々が地球上から消えてなくなれば、自分を苦しめる問題はすべて解決すると思い込んでしまう。

 なぜそういう「脳内転換」をしてしまうのかという、「ラクで気持ちがいい」からだ。

 一体どういうことかというと、今流れている「デマ」を例にすればわかりやすい。

 今回の事件直後、山上容疑者は「在日」であるという根拠のないデマがSNSで流れていた。これを受けて、韓国総領事館では報復として、在日コリアンや日本滞在中の韓国人が「ヘイトクライムの対象になる可能性がある」として注意喚起をしている。

 なんとも皮肉なことだが、山上容疑者が「旧統一教会を日本で広めたのは安倍晋三」と思い込んで憎悪を燃やしていたように、安倍氏の支持者が「安倍さんを殺したの山上は在日コリアン」と思い込んで憎悪を燃やすという「ヘイトの無限ループ」が既に始まっているのだ。