2022年4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率が10四半期ぶりに7%を超えるなど、足元堅調なベトナム経済。新型コロナウイルスの感染動向も落ち着きつつある。しかし、先行きには不透明要因が山積している。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
双子の赤字を抱え通貨が
下落しているベトナム
このところの世界経済は、欧米など主要国を中心にコロナ禍からの回復が続く一方、中国では当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥が景気の足かせになるとともに、サプライチェーンの混乱を通じて、中国経済と関係が深い新興国や資源国景気の足を引っ張る動きがみられる。
ただし、世界経済の回復が進む一方、年明け以降はウクライナ情勢の悪化をきっかけとする欧米などの対ロ制裁強化を受けて幅広く商品市況が上振れし、世界的にインフレの動きが強まっている。
こうした事態を受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)など主要国の中央銀行はタカ派傾斜を強めている。国際金融市場においては、コロナ禍対応を目的とする全世界的な金融緩和を追い風とする『カネ余り』の手じまいが進んでいる。
金融市場環境の変化は世界的なマネーフローに影響を与えている。なかでも、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱(ぜいじゃく)な新興国における資金流出の動きが加速する傾向がある。
上述のように商品市況が幅広く上振れするなか、資金流出に伴う通貨安は輸入物価を押し上げてインフレのさらなる高進を招くことが懸念される。
昨年来の商品市況の上昇に伴う輸入増を受けて、足元の経常収支は赤字基調に転じている上、コロナ禍対応を目的とする財政出動を理由に財政赤字も拡大するなど、ベトナムは、『双子の赤字』を抱えている。
ベトナムの金融市場は他のASEAN(東南アジア諸国連合)主要国と比較して国際金融市場に対して開かれていないものの、足元の金融市場環境の変化を反映して、通貨ドン相場は調整の動きを強めている。
また、年明け以降のベトナムにおいては、感染力の強いオミクロン株の流入を受けて新規陽性者数が再び拡大の動きを強め、過去の『波』を大きく上回るなど感染動向が急速に悪化した。
こうした懸念材料を多く抱えるベトナム経済の先行きは、どうなるのか。次ページから分析していく。