これに対し、米国には欧州のような切迫した事情はない。その分、為替操作への反発は強いといえる。例を挙げよう。昨年末、国際金融界で知名度の高い米国の二人のエコノミストが「為替操作、米国経済、そして世界経済秩序」と題する論文を発表した。ジョセフ・ギャグノン(元FRB国際金融局アソシエート・ディレクター)とフレッド・バーグステン(国際金融担当財務次官などを歴任した)である。

 彼らは、米国が経済成長を加速し完全雇用を回復するためには、巨額の貿易赤字を解消する必要がある、と述べ、米国が財政負担をもたらさずにそれを実現するためには、他国の為替レート操作をやめさせ、米国の競争力が回復できる水準にドルを戻す必要がある、としている。そして、中国、スイスなどの具体的国名リストをあげ、これらの国に対して、①相殺的介入、②介入によるドル資産購入の禁止ないし課税、③輸入課徴金、④(できれば他の被害国とも連携したうえでの)より広範な報復措置の実施に向けた活動、などの段階的な対応を提言している。

 彼らは、為替操作国を、①経常収支が黒字、②一人あたり国民所得が高い、③半年分の輸入額以上の外貨準備を持っている、④外貨準備の増加率が経済成長率より高い、の条件を満たし、かつ為替市場に介入している国、としている。日本については、過去には大規模介入したが近年は介入していないので、現時点では報復リストでなく監視対象とされている。

 しかし、「もし安倍新首相がドルを購入することを通じて、円を急速に減価させるという発言を実行に移すなら、リストに加える必要があろう」、と述べている。そうした厳しい視線を無視して日本の輸出企業にとって80円台なかばではまだ不当に円高だ、できれば90~100円の方がよい、といった動機で円安誘導に踏み切れば、近隣窮乏化政策と受け止められ、対日強硬論を勢いづかせるリスクがある。

安倍発言で市場は動いたのか

 ところで、目標レートを設定し、具体的に為替レートに働きかけなければ、今後、どんどん円高になるのだろうか。

 これに関連して、興味深い点は、昨年末の解散総選挙時点以降の市場の動きである。この時期に市場は円安方向に大きく動き、それが株高を誘発したように見える。なぜ円安に動いたのか。ふたつの可能性が考えられる。