ここに来て、景気回復への明るい兆しがにわかに見え始めた。日本企業の業績を低迷させる「円高・株安」に、明確なターニングポイントが訪れているのだ。市場が大きく動き始めた背景にあるのは、政権を奪回した自民党に対する期待感に他ならない。安倍首相が掲げる目玉政策は、インフレターゲット(物価上昇率目標)を2%に定め、大胆な金融緩和によって、デフレと円高から脱却するというものだ。しかし、長引くデフレに慣れ切ってしまった国民にとって、インフレはとかく「生活リスクが増す」というイメージが強い。今後実際にインフレ局面に入った場合、我々の日常生活はどう変わり、どんなメリットとデメリットを被るのだろうか。専門家の意見を交えながら、世間に広まる不安の裏側を検証してみよう。(取材・文/岡 徳之、協力/プレスラボ)
寒すぎる冬に訪れた小春日和
円安・株高を演出する「アベノミクス」
今年の冬は特に寒い。出口の見えない不況の中で、人々はサイフのヒモとコートのボタンをしっかりと締め、心まで閉ざしてしまっているかのように見える。こんな状態がもう何年続いたことだろうか。しかし、ここに来て、景気回復への明るい兆しがにわかに見え始めた。日本企業の業績を低迷させる「円高・株安」に、明確なターニングポイントが訪れているのだ。
今年最初の取引となる1月4日には、日経平均株価が一時1万734円と堅調な株高になった。これは、東日本大震災発生の前日となる2011年3月10日の終値(1万434円)を上回る株価だ。円相場も一時1ドル=87円台後半となり、2年5ヵ月ぶりの円安水準となった。
直近では、上昇が目立っていた株式の利益確定売りが起き、円安・株高も一息ついた感があるが、久々の明るいニュースに、凍てついた国民の心には「小春日和」が訪れている。市場が大きく動き始めた背景にあるのは、政権を奪回した自民党に対する期待感に他ならない。
金融政策、財政政策、成長戦略の「3本の矢」で経済回復を目指すと宣言した安倍晋三首相の「強いイメージ」は、民主党政権に不満を募らせていた人々の心を奪うことに成功した。安倍首相が最も情熱を注いでいるのは、「第一の矢」である金融政策。インフレターゲット(物価上昇率目標)を2%に定め、大胆な金融緩和によって、デフレと円高から脱却するというシナリオである。「第二の矢」である大規模な公共投資で、そのシナリオを側面から支える。