1970年5月に公開された映画『レット・イット・ビー』は、69年1月に行われたザ・ビートルズのレコーディング風景を記録した映画だ。暗い色調でザラッとしたフィルムの質感のため、沈うつな印象のままポピュラー音楽史を通り過ぎていった。それから50年超――同映画を、『ロード・オブ・ザ・リング』の鮮やかな映像美で勇名をはせたピーター・ジャクソン監督が“リメイク”。『ザ・ビートルズ:Get Back』と題して2021年11月に公開された。公開といっても劇場ではなく、ディズニープラスによる配信だ。この作品がソフト化され、ついに22年7月、完全版が発売された。(コラムニスト 坪井賢一)
音声記録150時間、映像57時間以上分を
7時間47分の長編ドキュメンタリーに“リメイク”
1970年の映画『レット・イット・ビー』は1時間20分ほどのやや短い作品だった。当時の普通の映画はだいたいこのくらいの長さだったと思う。当初はテレビの特別番組として撮影していたそうで、監督のマイケル・リンゼイ=ホッグ(1940-)は隠しカメラや隠しマイクまでセットし、あらゆる演奏、会議、会話を記録していたらしい。
音声の記録が150時間、映像(フィルム)は57時間以上が保存されていたそうだ。これらの素材をピーター・ジャクソン監督(1961-)が音響と映像の最新テクノロジーを駆使し、デジタル・リマスタリングして美しく仕上げたのである。
しかも、なんと正味7時間47分という長大な作品として発表された。したがってリメイクというより完全な新作である。たしかに、この長さでは劇場公開は不可能で、配信ならではの長尺作品となったわけだ。そして、作品全編がソフト化され発売された。
次ページからは、その見どころを紹介するとともに、ザ・ビートルズ最後の2年の記録を、最新情報を織り込んで整理しておく。また、スタッフがかなり長く登場し、それぞれの役割やキャラクターの詳細が描かれていたことが非常に面白かったので、主要なスタッフについてもまとめた。