ザ・ビートルズの最後のアルバム『レット・イット・ビー』の発売は1970年5月(日本盤6月)だから、50周年は昨年(2020年)だった。ところが、記念盤は何も発売されず、しかも映画のリメイク版も公開が延期になり、がっかりしていた。それが、ようやく21年10月に6枚組豪華高額セットがユニバーサルから発売され、映画『ザ・ビートルズ:Get Back』も11月にディズニープラスで配信された。映画館で上映されていないのは残念だが、それは気長に待つことにしよう。(コラムニスト 坪井賢一)
最新技術でリメイクされた
映画『ザ・ビートルズ:Get Back』がすごい
映画はピーター・ジャクソン監督によるもので、なんと約6時間!3部に分けて配信され、有料会員はいつでも見ることができる。筆者は友人宅でざっと飛ばしながら見た。全部見るのは映画館上映時と決めている。
驚いたのは、50年前のあのザラザラした画質で暗い色調の映画が、クリアで爽快で美しく、楽しい映画へ劇的に変わっていたのだ。音源140時間、未公開映像55時間分が保存されていて、それをジャクソン監督はデジタルとAI技術を駆使して復元・再生し、創造を図ったのである。ザ・ビートルズの製作現場を体験する、不思議で感動的な作品に仕上がっている。
51年前の1970年、ザ・ビートルズは4月に事実上解散し、映画の日本公開は8月だったので、映画館の観衆は「解散直前の最後の姿」だと思って見ていた。したがってどの場面も悲しく、暗澹(あんたん)たる情景に見えた。一方、今回のジャクソン作品は、ポールとジョージが激しくやり合っている深刻な場面でさえ、美しくすっきりと、爽やかに描かれていて、51年前の印象を吹き飛ばしてくれる。
当時リアルタイムで聴いていた中高生は、今では全員60歳以上である。それでも世界中のあらゆる世代のファンが待っていたのだから、ザ・ビートルズの影響力は絶大だ。
20代の頃のザ・ビートルズを、まるで昨日撮影したかのような新鮮な映像で見ることができるのは、デジタル技術の大きな成果である。
ジャクソン監督は、第1次大戦の終戦100年を記念した映画『彼らは生きていた』を2018年に制作した(日本では20年に公開。現在は配信で視聴可能)。本作は、100年前の大量のモノクロ・フィルムをデジタル技術でカラー化したもので、色合いも粒立ちも精度の高い画質に変えている。「驚異の映像」で第1次大戦を実見できるようにしたのだ。この経験と技術を投入して、ザ・ビートルズの1970年のフィルムを修復したのである。