新型コロナウイルスによって、私たちの生活は大きく変わった。それだけではない。仕事や学校など「当たり前」に存在していたものの在り方が変わり、「生きる」ことの根底を見直す機会が強制的に訪れてもいる。
「人類も、いつかは絶滅するかもしれない……。」コロナ禍以前は小説や映画の中だけだったこんな不安が、現実味を帯びてきた。
動物学者の今泉忠明氏は「こんな時代だからこそ、我々は『絶滅』を学ぶべきだ」と語る。「“こども”の本総選挙」では2年連続1位に選ばれ、『ざんねんないきもの事典』や『わけあって絶滅しました。』シリーズの監修をつとめる今泉氏。
シリーズ80万部を突破した最新作『も~っと わけあって絶滅しました』では、さまざまな生き物の絶滅理由を紹介するとともに、「人間による絶滅がなぜよくないか」「絶滅危惧種はいま、どんな状況にあるのか」といった、絶滅の「今」についても取り上げている。
絶滅を学ぶと、どのようなことが見えてくるのか。『も~っと わけあって絶滅しました』の内容をもとに、今泉氏に聞いたーー。(取材・構成/加藤 紀子)
「絶滅」には2種類ある
――生き物本を長年作り続け、近年では一大ブームを作り出した今泉先生。子どもたちに、今生きている生き物だけじゃなく、絶滅生物のことも知って欲しいと思うのはなぜなんでしょう?
今泉 「今」を知るには、「昔」を知らないといけないからです。
今いる動物のことは、それがどうやって現れてきたかを知らないと理解できないんですよ。
およそ40億年前に地球に初めて生命が生まれて以来、次々と新しい生き物が進化し、同時に多くの古い生き物が滅んでいきました。
絶滅した動物がいたから、今いる動物が存在できている。
進化と絶滅は背中合わせだったのです。
ただし、絶滅には2種類あります。
ひとつは自然絶滅。
生き物というのは生存競争なので、その時代の環境に適したものが繁栄して、適さないものが滅びていきます。
自然絶滅の裏側には進化があります。
『わけあって絶滅しました。』にも書いたとおり、例えば今から約2億100万~6600万年前は、恐竜の時代でした。
ところが、地球に巨大隕石が衝突したことで、上空に舞い上がった大量のちりが太陽の光を遮り、地球は一気に寒くなります。その時、恐竜をはじめ、生き物の70%の種が絶滅しましたが、これをきっかけに、それまで肩身の狭い暮らしをしていた鳥類や哺乳類が一気に種類を増やしました。
つまり、恐竜が絶滅しなければ、私たち人間は生まれていないのです。
もうひとつの絶滅は、人間の行動の結果、絶滅が起きてしまう人為絶滅です。
15世紀あたりから、この人為絶滅が一気に増えてきました。
人為絶滅は進化を生みません。
今、世界中の多くの人々は、自分は生き物を絶滅させようとしている意図はなくても、「まだいるから、ちょっとくらい、いいよね?」という根拠のない考えで、「高く売れるから」「美味しいから」「そこに新しい道路が必要だから」などといった自分たちの都合を優先させています。
その結果、気づかないうちに生き物たちを絶滅させてしまい、「知らなかった」「やめられなかった」という言い訳をします。でも、後悔したところで、絶滅しまった生き物はもうよみがえりません。
今、人間は、地球上のどの生き物より広い地域に住み、最もほかの生き物を滅ぼす生き物になっています。
自然絶滅と人為絶滅とは、同じ絶滅でも全く意味が違うんだってことを子どもたちに見分けられるようになってほしい。
今いる生き物を知らず知らずのうちに絶滅させてしまわないように、子どもたちにこうした知識を伝えていくのが大人の務めではないか、と。
僕はそんな思いを、本を通じて子どもたちに発信し続けているのです。