上昇する物価と、上がらない給料、そして将来への先行き不安。そんな状況から「投資」を始めた人も多いのではないだろうか。しかし多くの日本人は「投資」と「投機」を混同している。「投資」は、短期間に株の売買を繰り返すことではない。選び抜いた企業のオーナーとなり、その成長を長い期間で楽しむのが「投資」だ。企業を選び抜くには、さまざまな分析と考察が必要である。その思考法が書かれたのが『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』(奥野一成)である。「投資家の思考法」を身につければ、投資はもちろん、あなたのビジネスも成功に導かれるはずだ。

200万円のオーブンが飛ぶように売れるたった一つの理由Photo: Adobe Stock

「人件費」を削減できるオーブン

 ラショナルという企業を知っている方は少ないかもしれません。スチームコンベクションオーブン(スチコン)という、レストランやホテルの厨房で使用される特殊なオーブンで世界シェア50%を誇るドイツの企業です。1台100~300万円ほどするのですが、年間数万台も売れています。

 ここで、皆さんのお気に入りのレストランの料理を思い浮かべてみてください。その料理のどこが素晴らしいのでしょうか?

 レシピが独創的、新鮮な旬の素材を使っている、味付けが絶妙、盛り付けが美しい……などいろいろ思い浮かぶと思いますが、「焼き加減がちょうどいいんだよね」と思った方はあまりいないはずです。レシピ開発、材料仕入れ、下ごしらえ、加熱、味付け、盛り付けという、調理の一連のプロセスを考えるとき、実は「加熱」工程は、ある一定のレベルをクリアすれば、それ以上の顧客満足を得ることにはつながりにくい工程です。

 その一方で、焦がしてしまうと食材が無駄になるので、加熱している間の5分とか場合によっては数十分、それなりの技術を持ったシェフをコンロの前に張り付けておく必要があります。つまり、この加熱工程をレストランのオーナーから見ると、コストがかかる割に最終製品の差別化につながらない、付加価値の低い工程だと言えます。

 この問題を解決するのがラショナルのスチコンです。スチコンは、スチーム(蒸気)とコンベクション(熱風)をコンピュータで制御して、焼く、蒸す、揚げる、炒めるなどの加熱調理を、完全自動で一流シェフさながらにこなすオーブンです。ユーザーは、食材をオーブンにセットして、タッチパネルでメニューを選ぶだけ。あとは自動的に料理が出来上がるため、シェフはオーブンから離れ他の作業をすることができます。

 さらにラショナルのスチコンが優れているのは、オーブン内の段ごとに違う料理を同時に作れる点です。1段目でチキンをパリパリに焼きながら、2段目、3段目で付け合わせのフライドポテトと蒸し野菜を作り、同時に4段目でデザートの準備をするといったことが可能です。特殊な蒸気の技術で食材の匂いが他の段に移ることもありません。さらに一日の仕事が終わってシェフたちが帰った後に、自動で内部を洗浄する機能まで付いています。

 つまり、ラショナルのスチコンを導入することは、熟練のシェフを一人雇うのと同等の効果があるのです。月数十万円の人件費を削減でき、他のシェフたちには味付けや盛り付けなど、よりクリエイティブな仕事に専念してもらうことができます。だからレストランオーナーは喜んで200万円を支払います。これこそがラショナルが提供する付加価値なのです。

 その営業方法も特徴的で、「クッキングライブ」と呼ぶ独自の形態をとります。クッキングライブはレストランのオーナーシェフやホテルの厨房責任者などをラショナル社内のキッチンに招き、スチコンのデモンストレーションをするものです。説明をする販売員も元々一流レストランやホテルで働いた経験のあるシェフです。彼ら自身がシェフですから、顧客の困りごとが手に取るようにわかり、かゆいところに手が届く説明をしてくれます。