顧客はただ安い製品が欲しいわけではない

 私も実際に2回ほどクッキングライブに参加したことがあります。参加者たちは、スチコンで作られた料理の出来栄えに感嘆するとともに、スチコンの使い方や自分のキッチンの困りごとを「セールスシェフ」に相談していました。頭の中では「これを入れればスタッフを一人減らせるな」とか「食材ロスをこれくらい減らせるな」などそろばんをはじいていたはずです。

 ラショナルの約2000人の従業員のうち、300人以上がセールスシェフです。コロナ禍前は世界中で年間延べ1万回以上もクッキングライブを開催していました。過去にクッキングライブに参加した人の実に7割が、半年以内に導入を決めているそうです。

 そして、セールスシェフたちが聞いた顧客の困りごとは、即座に本社の開発部門に伝えられ、新しい機能開発や各地域のレシピへの対応など、スチコンの心臓部であるソフトウェアの強化に活かされています。顧客の課題を発見し、競争力強化につなげる「仕組み」になっているのです。

 顧客はただ機械を安く買いたいわけではありません。自社のコストを減らして、利益を増やすためにはどうすればいいのか? という課題を抱えているのです。

 ということは、顧客がものづくりをする工場であれ、料理をつくるレストランであれ、原材料を仕入れ、製品に加工し、運んで、顧客に提供するまでの業務プロセス全体をみる必要があります。その過程における課題を改善できれば、より多くの利益を生み出せるからです。

 ラショナルの粗利益率は約60%、営業利益率は30%近く、製造業としては非常に高い水準にあります。日本の家電メーカーと比較するとその差は歴然です。直近は顧客である飲食産業がコロナ禍の影響を受けているため少し下がっていますが、長期に渡って安定的に推移しています。ラショナルのスチコンがいかに顧客の課題を解決し、顧客に求められてきたかの証左と言えます。

奥野一成(おくの・かずしげ)

投資信託「おおぶね」ファンドマネージャー

200万円のオーブンが飛ぶように売れるたった一つの理由

農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(いずれもダイヤモンド社)など。

 

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