オミクロンBA5は「風邪レベル」になる?

――2020年に武漢株が日本で感染拡大して以来、多くの変異株が出現したわけですが、初期からこれまでで、全体としてどんな変化がありますか?

 表2は、厚生労働省がこれまで毎週発表してきたPCR陽性数、重症者数、死亡者数の週報を、私たちが株の期間に応じて再集計して作成した表で、株別の感染状況の概要を示しています。この表のPCR陽性者数の推移から、武漢株より変異が進むと、感染力が強くなり、オミクロン株になり急激に感染力が強くなったことが読み取れます。

 特に注目すべきは、図2にグラフ化して示すように、重症化率と死亡率が、オミクロンBA2で急速に低下し、オミクロンBA5で更に低下していることです。オミクロンBA5の重症化率と死亡率は、武漢株やアルファ株の頃の、およそ1/80ぐらいまで低下しています。この値は、少なくともインフルエンザより低く、風邪と変わらないレベルと推測します。

今後考えられる2つのシナリオ

――オミクロンBA5の重症化率と死亡率が「風邪と変わらないレベル」であれば、何が怖いのでしょうか?

 風邪は指定感染症でないのでデータは存在しないのですが、風邪が大流行したときの社会の様子から推測すると、数週間の間に数千万人がり患し、多くは無症状・鼻かぜレベルですが、一部が発熱などにより寝込み、風邪でも体力のない寝たきり高齢者が亡くなります。

 オミクロンBA5でも、体力のない人がり患した場合、風邪より症状が重い、重めの後遺症が残るなど、風邪よりも確実に重い感染症であります。一方、多くの臨床医から集めた患者さんの様子に関する情報から、私はインフルエンザより軽い感染症であると、判断しています。

――今後はどんなウイルスが生まれる可能性があり、どんな波になると推測できるでしょう?

 ウイルスの変異とは、コロナウイルスが増殖するときに発生するRNA(新型コロナの設計図)の転写ミスにより生じます。設計図が変わるとそれを基に作られるウイルスの部品が変化します。ウイルスの変異の多くは失敗に終わりウイルスは消滅する。あるいは機能が低下するのですが、非常にまれにウイルスから見れば大成功の変異が起き、感染力が増強される場合があります。

 しかし、病原性は維持、または低下し、増強されることはほとんどないようです。これまでの新型コロナも、武漢株からデルタ株までは感染力は増強、病原性が維持され、オミクロンになり、感染力はさらに大きく向上、病原性は大きく低下しました。

 今後は、集団免疫が世界的に成立し「消滅」する、もしくは感染力が更に増強するが病原性が低下し「風邪化」が進むという2つのシナリオが考えられます。どちらの方向に進もうと、国民全体として危機感が薄れつつあっても、今回の新型コロナに関しては、短期間に数万人が亡くなるというような大きな問題が発生する可能性は限りなくゼロに近いと思います。

高橋 泰(たかはし・たい)国際医療福祉大学大学院教授
1986年金沢大学医学部卒、東大病院研修医、東京大学医学系大学院(医学博士)、米国スタンフォード大学、ハーバード大学での研究生活を経て、1997年より国際医療福祉大学教授、2004年より学科長、2016年より学部長、2020年より現職。
2016年9月より2020年9月まで 安倍内閣構造改革徹底推進会合医療福祉部門副会長として医療介護のICT化や介護の科学化推進を提言してきた。

>>後編に続く

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