5年生存率96.3%!胃がんが5大がんから外される日

かつて、がんは「告知=死」と恐れられました。ところが、抗がん剤やがん治療の進歩は目覚ましく、近年「がん全体の5年生存率は60%強」と言われるまでになりました。しかも、ある条件さえ満たせばほぼ90%は死なない病気になりました。ここでいうある条件とは「早期発見」です。早期発見して治療開始した症例だけを見ると、ほぼ100%に達しています。がんは早期に発見して治療すれば、延命ではなく、治癒できる病気になりつつあるのです。この連載では書籍『「がん」が生活習慣病になる日』から、「死なない病気」に近づけた条件の一つである部位別がん治療の最前線を紹介し、さらに二つ目の条件である「早期発見」のがん検診の最新情報も紹介していきます。

胃がんの98%はピロリ菌が原因

 日本の胃がんの罹患数は2010年代から減少し、14年には大腸がんに1位の座を譲りました。死亡率も男女ともに減少傾向にあります。これは胃がん検診などでがんを早期発見・早期治療することで完治するケースが増えたこと、また日本人の胃がんの98%はピロリ菌が原因でとされていますが、そのピロリ菌感染者が減ったこと、さらには胃がんに対する医療技術が格段に進歩したことが影響していると考えられています。

 2021年に国立がん研究センターがまとめたデータによると、胃がんは早期発見の生存率が高く、ステージIで発見された場合の5年生存率は96.3%、10年生存率も90.9%となっています。つまり、早期に発見できさえすれば、胃がんはほぼ死なないがんといっても過言ではなくなってきているのです。

内視鏡的粘膜下層剥離術なら治療時間が最短15分

 早期胃がんの治療は、最近ではその多くが「ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術」と呼ばれる治療法で行われます。身体的な負担の少ない内視鏡手術で、主に粘膜内にがんがとどまっている状態で、リンパ節転移のない早期の胃がんに対して行われます。がんの大きさや部位によって異なりますが、治療時間は15分から2時間程度。入院期間も約1週間で済みます。

 このESDの先駆者の一人として知られているのが、静岡県立静岡がんセンター・内視鏡科部長の小野裕之先生です。技術改良を加えつつ、国内だけでなく、世界中にESDを普及させた功労者でもあります。国立がんセンター(現:国立がん研究センター)中央病院勤務時代から、ITナイフの開発・臨床応用にも携わってきました。

ESDの具体的な手順は次のとおりです。 

(1) がんの周囲に電気メスでマーキングをする 
(2) がんの下の粘膜下層に液体を注入し、がんを盛り上げて切開しやすくする 
(3) マーキングを目印に、がんの全周を特殊な電気メス(ITナイフ)で切開する 
(4) がんの裏側の粘膜下層を剥離し、がんを内視鏡で回収する 
(5) 切除面が出血している場合には、術後出血の予防のために止血する 

 手順はシンプルですが、執刀医には高い技術が求められます。胃がんの手術を受けて、極端にやせてしまう患者がいますが、ESDでは、そのような心配はあまりありません。静岡がんセンターでは、極端にやせてしまうような事例は20年間でわずか1、2例とのことです。

 医療の世界は日進月歩ですが、胃がん治療において、早期は内視鏡、それ以上に進行したものは外科手術、さらに進んでいる場合は抗がん剤治療という枠組みは、今のところ大きく変わっていません。ただし、ダヴィンチによるロボット支援手術が普及し、新たな抗がん剤も続々と登場していることから、治療成績は着実に向上しています。