7月22日、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)で「町工場にドラマあり!」と取り上げられた富山県高岡にある「能作」が話題だ。
今、ここに年間「12万人」が殺到している!工場見学にきたある小学生は「ディズニーランドより楽しかった」と言ったとか。
そして、10月16日、今度は「がっちりマンデー‼︎」に「ムコ社長特集」で能作克治社長が取り上げられた。そうなのだ、能作社長はがっちりなムコ社長なのだ。
能作の商品は、MoMA(ニューヨーク近代美術館)デザインストア、三越、パレスホテル東京、松屋銀座などでも大人気。世界初の錫100%の「曲がる食器」シリーズは世界中を魅了している。
処女作『社員15倍!見学者300倍! 踊る町工場――伝統産業とひとをつなぐ「能作」の秘密』が話題となっている、 能作克治社長を直撃した。(初出:2019年11月30日。再掲載にあたって一部内容を再構成した)
――普通の会社は「営業部」があります。でも御社はないそうですね。なぜ営業部が存在しないのでしょうか?
なぜ、能作には営業部がないのか?
能作克治(以下、能作):能作は、2002年に「真鍮の風鈴」を開発し、新たな市場へと踏み出しました。
もともと鋳物の下請けメーカーですから、自社商品の開発・販売は、あくまでも「問屋を中心とする流通形態を保つこと」が大前提です。
そのうえで、どのように販路を広げていくかが課題です。
自社商品開発・販売のルールは「6つ」あります。
――その6つを教えてください。
6つのルール
能作:次の6つです。
1.自社のオリジナル商品のみ直販する
2.小売店がすでに問屋と取引がある場合は、問屋経由とする
3.営業部門をつくらない
4.「定価」で販売する
5.販路を絞らない
6.店舗は直営にこだわる
――それぞれどんな理由なのでしょうか。
自社のオリジナル商品のみ直販する
能作:まずは「自社のオリジナル商品のみ直販する」から行きましょうか。
直販するのは、当社のオリジナル商品に限ります。
産地の問屋で扱ってもらっている仏具、茶道具、花器は従来どおり「問屋」に卸します(生地屋としての事業は引き続き継続)。
・旧来品(問屋からの依頼品)は問屋へ卸す(直販はしない)
・オリジナル商品は直販する(問屋へも卸す)
問屋を飛び越えると、地域内の分業制が成り立たなくなり、問屋だけでなく、着色や彫金を行っている会社にも迷惑をかけてしまいます。
古くからの慣習だった「共存共栄」に反することになりかねません。
ですから能作は、高岡の問屋と、他の生産者の邪魔をしないように配慮しつつ、独自のチャネルを開拓したのです。
――共存共栄を重視しているわけですね。
小売店がすでに問屋と取引が
ある場合は、問屋経由とする
能作:はい、そのとおり。次は「小売店がすでに問屋と取引がある場合は、問屋経由とする」ですね。
新しい会社(小売店)とつき合うときは、
「高岡の問屋とのつき合いがありますか?」
と確認してきました。
すでに高岡の問屋と取引のある小売店は、問屋との衝突を避けるため、(オリジナル商品を扱うときでも)問屋を介していただきます。
売ろうとする先(小売店)が問屋と取引があるのに能作が直販をすれば、不協和音が生まれてしまうからです。
――なるほど。
能作:実際には、問屋との取引がある小売店は、ありませんでした。
つまり、
「伝統産業は、つくり手だけでなく、流通も古い」
「既存の販路だけで、新規開拓をしてこなかった」
ということであり、逆に言うと、
「自分たちの手で販路を広げる(市場を広げる)余地が残っている」
わけです。
ただ、「流通が古い」からといって、僕は問屋を中心とした事業構造を「壊そう」と思ったことは一度もありません。
能作は、問屋を通さずに直販比率を上げているため、他の生産者から、
「能作さんが問屋の壁を壊してくれたから、自分たちも後に続きやすい。
問屋に遠慮しないですむようになった」と言われたことがあるのですが、僕は「地域の伝統産業を壊さず、地域全体で成長したい」
と思っているので、「問屋の壁を壊した」という表現は適切ではありません。
むしろ、問屋の邪魔をしないように、「避けてきた」つもりです。
――問屋の邪魔をしないことが大切と。
能作:また、「新しい販路に新しい商品」を持ち込んでいるので、高岡全体の経済に貢献している自負もあります。
――確かに。
営業部門をつくらない
能作:ではいよいよ3つ目の「営業部門をつくらない」に行きましょうか。
――はい。
能作:能作は、営業や売り込みを一切していません。
――そうなんですか。なぜですか?
能作:独自に営業をすると、問屋に迷惑をかける可能性があるからです。
したがって、僕のほうから「出店させてください」「能作の商品を置いてください」とお声がけしたことは一度もありません。
「こられる方に対応する」のが基本です。
――そんな会社はあまり見たことがないですね。
能作:「能作の製品が本当にほしい人は、高岡まできてください」とわがままな姿勢を貫いています。
三越も、松屋銀座も、パレスホテル東京も、ありがたいことに先方から出店の依頼をいただきました。
――そうそうたる老舗百貨店からも。営業しなくても、そんなことがあるのですか!
能作:能作に営業スタッフがいるとすれば、それは「富山県の人たち」です。
――カッコいい!
能作:いえいえ、これは本心です。
県民の方々が、「この商品は、高岡にある『能作』という会社がつくったんだよ」と口コミをしてくださっているからこそ、全国展開できたのだと思います。とてもありがたいことです。都道府県別の売上を見ると、東京に次いで富山の売上が大きいのです。
――そんなに富山の比率が高いのですか!
能作:そうなんです。本当にありがたいことです。
大切なのは、技術を磨いて、「能作さんの商品は、素晴らしい」「能作さんのものづくりに対する姿勢に共感する」と思っていただけるようになることです。
それがかなえば、営業部門を持たなくても、お客様のほうからお声がかかると思います。
――そうなんですよね。ただそうは言うものの、実現するのは難しい。
能作:全国には技術に優れた町工場がたくさんあります。うちができたのですから、きっと実現できる会社もあると思います。
――そうですね。日本全国、面白い町工場がありますからね。では、6つのルールの後半については次回教えてください。
能作:わかりました。ぜひみなさんに工場見学にきていただきたいです。
年間12万人が訪れる富山の本社工場の雰囲気を知りたい方は、第1回連載もご覧いただけたらと思います。
(本原稿は、能作克治の処女作『踊る町工場』の内容をベースに著者にインタビューしたものです
『踊る町工場』にはムコ社長が営業なしで売上を10倍にしたノウハウと面白エピソードが一冊凝縮されています。ぜひチェックしてみてください。
1958年、福井県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒。大手新聞社のカメラマンを経て1984年、能作入社。未知なる鋳物現場で18年働く。2002年、株式会社能作代表取締役社長に就任。世界初の「錫100%」の鋳物製造を開始。2017年、13億円の売上のときに16億円を投資し本社屋を新設。2019年、年間12万人の見学者を記録。社長就任時と比較し、社員15倍、見学者数300倍、売上10倍、8年連続10%成長を、営業部なし、社員教育なしで達成。地域と共存共栄しながら利益を上げ続ける仕組みが話題となり、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)など各種メディアで話題となる。これまで見たことがない世界初の錫100%の「曲がる食器」など、能作ならではの斬新な商品群が、大手百貨店や各界のデザイナーなどからも高く評価される。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞、第1回「三井ゴールデン匠賞」グランプリ、日本鋳造工学会 第1回Castings of the Yearなどを受賞。2016年、藍綬褒章受章。日本橋三越、パレスホテル東京、松屋銀座、コレド室町テラス、ジェイアール 名古屋タカシマヤ、阪急うめだ、大丸心斎橋、大丸神戸、福岡三越、博多阪急、マリエとやま、富山大和などに直営店(2019年9月現在)。1916年創業、従業員160名、国内13・海外3店舗(ニューヨーク、台湾、バンコク)。2019年9月、東京・日本橋に本社を除くと初の路面店(コレド室町テラス店、23坪)がオープン。新社屋は、日本サインデザイン大賞(経済産業大臣賞)、日本インテリアデザイナー協会AWARD大賞、Lighting Design Awards 2019 Workplace Project of the Year(イギリス)、DSA日本空間デザイン賞 銀賞(一般社団法人日本空間デザイン協会)、JCDデザインアワードBEST100(一般社団法人日本商環境デザイン協会)など数々のデザイン賞を受賞。デザイン業界からも注目を集めている。本書が初の著書。
【能作ホームページ】 www.nousaku.co.jp