あらゆるいじめを「犯罪」として解決できるのか

「大きな試合でチーム敗北の原因をつくったにもかかわらず、当の本人はペナルティーどころか、次の試合にもレギュラー出場か」――B中学サッカー部内には、優遇されるAくんへの不満がまん延しているようです。

 私たちの社会では、「いじめは犯罪だ」「深刻な事態を『いじめ』という言葉で曖昧にしている」など、いじめを「犯罪」と捉えた方が良いという議論が多々あります。それほど多くの人たちがいじめによって自身の尊厳を傷つけられた経験を持ち、いじめの根絶を望んでいるということでしょう。

 事実、今回のケースで、「レギュラーを辞退しなければ、二度と動けない体にしてやる」という手紙をAくんの靴箱に入れる行為は、人の身体に対して害を加える旨を告知する行為ですから、刑法第222条1項「脅迫罪」に該当します。

 したがって、この行為については、手紙を靴箱に入れた人物に対して「あなたの行為は犯罪です」と指摘することができます。

 刑法は、基本的人権を最も強く制約する刑事罰の根拠法令です。そのため、安易に基本的人権を制約することがないよう、原則として、その要件を極めて厳格に定めています。「刑法に明確に該当する」といえる行為だけが刑法上の犯罪となるのが基本です。

 例えば、このケースの手紙の内容が、「二度と動けない体にしてやる」ではなく、「死ね」と一言だけ書かれていた場合、その行為が脅迫罪にあたる可能性は低いと考えられます。

 脅迫罪の対象は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者」(刑法第222条1項)であるところ、手紙で一度「死ね」と相手に伝えただけでは「(生命に対して)害を加える旨を告知した」とは言い難いからです。「私は手を下さないけれど、目の前から消えてくれ」という意味のメッセージである場合も多いでしょう。その方がよほど、やり方として卑怯だという意見もあるかもしれませんが、そのことと犯罪の成否は別の問題です。

 同様に、「根拠のないうわさを流す」「イヤミや陰口を言う」「無視する」といった行為も、刑法が求める犯罪の要件を直ちに満たすものではありません。

 ですから、いじめの問題に対して、うかつに「犯罪」の概念を持ち出したり、振りかざしたりしてしまうのは、かえって本質的な議論を遠ざける可能性があるのです。「犯罪者のレッテル」など誰も貼られたくはありませんから、「この程度の行為が犯罪になるはずない!自分は悪くない!」という反論や抵抗が、より強いものになる可能性も高まります。