多くのビジネスパーソンから、「会議がうまく仕切れない」「無駄な会議だと言われる」「何度も似たような会議を繰り返してしまう」「結論が出ない」といった悩みを耳にする。しかし、「1ページ」のメモを事前に作り、その場で配布してうまく活用すれば、会議の進行は大きく変わる。何より、「1ページ」の力は、ミーティングをうまく仕切れなかった著者自身が、P&G、楽天、フェイスブック、MOON-Xと業界も会社も、自分の役割さえも変わっても、一貫して変わらず、実感し続けている。当連載では、『今すぐ結果が出る 1ページ思考』(長谷川晋)にまとめられている「1ページ」を活用した会議の進め方などを解説していきたい。
業務を外部に発注するときの「1ページ」
社外の専門家に何かを依頼するときのブリーフ「1ページ」です。2023年春の新しいテレビCMのクリエイティブ制作を広告代理店にブリーフィングする、という想定です。
制作物を作ってもらう場合、あまりオススメしないやり方は、「とりあえず、売れるCMを作ってください」と漠然とした依頼をしてしまうことです。そうすると、広告代理店は文字通り自由な発想で作るので、期待値と全然違うものが出てきてしまい、「これは違う」となることが多い。でも、そもそも期待値のすり合わせなどしていないので、当然といえば当然の結果です。
もちろん広告代理店の多くは、「そもそも何のために作るのか」といった基本的な質問をしっかりと行うでしょう。その上でさまざまな提案を行い、制作を進めていくことが一般的です。しかし、プロに何かを依頼するのであれば、その前に自分は何を作ってほしいのか、何を作ってほしくないのか、という意志を明確にするべきだと私は考えています。
これは、過去のキャリアの中で教え込まれてきたことですが、英語でいえば、「What you get is what you deserve」。専門家からもらえるアウトプットは、インプットとして自分が作るブリーフの質に完全に左右される、ということ。自分が受け取れるアウトプットは、自分の身の丈に合ったものだということです。
いかにブリーフを鮮明で明確、しかもインスピレーションのあるものにできるか。それこそが、専門家からのアウトプットのクオリティを決める。だからこそ、本気で作る「1ページ」の質がビジネスの結果に大きな影響を与えます。
この例のポイントを説明していきます。「制作依頼ブリーフ」とすでにタイトルに入っていますから、「今日のミーティングの目的」といったものは省略しています。そもそもどんなミーティングなのか、認識が全員にあるので、あえて入れる必要がない。
一方で「ビジネス背景」は重要です。作ってほしいもの=依頼事項がもちろん最重要ポイントになるわけですが、そこにいく前に、ビジネスが今どうなっているのか、クリエイティブや制作物を使って何を達成したいのか。そうした背景情報をしっかり目線合わせをしておく。このような大局観が、クリエイティブの方にとってインスピレーションになるケースも多くあります。その上で、具体的な「依頼事項」へと進んでいくのです。
「依頼事項」は、クリアであることが大切です。何を作ってほしいのか、「予算」はいくらなのか、はっきりと書く。
また、コミュニケーションの場合は、「誰向けに」「何の内容で」「どんなふうに伝えるのか」が基本的な情報です。
「ターゲット消費者:WHO」「コミュニケーション内容:WHAT」「具体的な制作物に関する考慮事項:HOW」の3つを、チャートを使って整理し、一つひとつをカバーしていきます。
大事なところは、ハイライトで目立つようにしていますが、一つのポイントは「WHAT」の中にある「コミュニケーション後の消費者認識」です。
CMを見た後に、消費者目線でどんな一言を言ってもらいたいのか。これは、コミュニケーションの設計上、とても大事なことだと私は考えています。ここは、あえて口語だったり、消費者のコメントっぽいものを入れて、相手が想像しやすくしています。
MOON-X Co-Founder/CEO
2歳から9歳までアメリカ、シアトルで育つ。京都大学経済学部卒、体育会ハンドボール部主将。2000年に東京海上火災入社、法人営業担当。P&Gで10年間、Pampers・Gillette・BRAUN・SK-IIなどのマーケティングおよびマネジメントを統括。その後、楽天の上級執行役員としてグローバルおよび国内グループ全体のマーケティングを管掌。2015年Facebook Japanの代表取締役に就任、在任中にInstagramの国内月間ユーザー数は810万から3300万に。2019年8月に「ブランドと人の発射台」をミッションに掲げるMOON-X Inc.を創業。現在、自社D2Cブランドを展開すると同時に、共創型M&Aや他社ブランドの支援も展開中。『今すぐ結果がでる 1ページ思考』(ダイヤモンド社)が初の著書。MOON-Xコーポレートサイト:https://www.moon-x.com/ Twitterでは次世代ビジネスリーダー向けに「#ビジネスの戦闘力」を高める情報を発信中:@ShinHasegawa8
考慮事項の中には、「制約事項」も含まれていますが、ここもクリアに伝えていく必要があります。できあがったけれど、ブランドガイドラインとまったく違っていた、ということになれば、すべてやり直しになるので、みんなが不幸になります。
制約事項やあらかじめ考慮してほしい事項は、しっかりと入れておくことが、ブリーフにおいてはとても大事なことなのです。
つまりは、依頼するものの「幅」をしっかり規定するということです。これは、プロに仕事を依頼する上では、最低限のマナーだと思っています。本当になんでも自由に作ってもらっていいケースはごく稀です。
「グローバルですでにCMがある」「著名人も検討してもらっていい」といった幅を伝えたり、製品デモについても「今のCMのものが完璧だと思っていないので、新しいものが有効であれば、考えてください」とメッセージを入れておく。
一方で、ブランドガイドラインにはしっかり従ってください、ということで制約を入れていく。
「ネクストステップ」は、いつ、どういう形で使われるのか、いつ承認なのか、編集や撮影の段取りなども大事ですから、そのあたりも含めて、自分たちはこんな感じで想定している、ということを伝えておく。それも、ブリーフでは重要です。
背景情報、依頼事項、そして制作の幅の規定、さらには段取り確認。このあたりが、外部の専門家に依頼する上では大事なポイントです。
ブリーフですから、基本的には丁寧に説明をしながらリアクションをもらっていきます。どちらかというと討議というよりは、共有しながら相手の様子を見て、少し腹落ちしている感じが足りなければ必要に応じて補足説明をしながら進める、というイメージです。
討議が活発になってくるのは、後のステップです。このブリーフに基づいて出てきた案をどれにするか、もっとこういう編集をしたほうがいい、これだとブランド名が記憶に残りにくいのではないか、などなど。討議は、ブリーフのあとの提案を受けてするケースが多いかもしれません。
しかし、しっかりしたブリーフがなければ、討議がやっかいなものになることは、ご想像いただけると思います。前提がないままに作り、前提がないままに討議することになってしまいます。
そうならないためにも、しっかりしたブリーフが求められる。そこで「1ページ」を使うのです。
※当記事は、『今すぐ結果が出る 1ページ思考』より一部を抜粋・編集したものです。