「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。

【91歳の医師が教える】<br />一度発症したら回復が見込めない「認知症」…<br />脳機能の後退にブレーキをかける“医学的理由”Photo: Adobe Stock

15年以上電話をかけ続けて
ボランティアでサポート

【前回】からの続き 認知症患者さんへの毎朝のボランティア電話では、あらかじめ決めた毎月の合言葉を答えてもらったり、助け舟を出しながら日付を答えてもらったりしています。バカバカしいと思われるかもしれませんが、思い出す作業を毎日続けながら、治療薬を並行して用いることにより、患者さんの認知機能の後退にブレーキをかけられます。

長いケースでは、もう15年以上電話をかけ続けている患者さんもいます。15年前と比べると認知機能はかなり落ちていますが、いまでも介護施設に入らずに自宅療養で済んでいますから、電話の効果は少なからずあるのでしょう。

脳には、ダメージを受けると再生しないという不可逆性がある一方、「代償性」も持ち合わせています。代償性とは、身体の機能が一部失われると、その機能を果たすべき部位とは別の部位が補助するような働きを見せること。脳も一部が壊れてしまうと、壊れていない健全な部分が助けてくれるようになるのです。

思い出す作業で脳の「代償性」を高める

その一例を挙げると、脳の片側の半球に「脳梗塞(のうこうそく)」が起こって麻痺(まひ)すると、反対側の健全な半球が機能を肩代わりすることが知られています。私が続けているボランティア電話も、この脳の代償性を誘導しているのではないかと考えています。

思い出す作業を繰り返しているうちに、損傷した神経細胞のまわりの細胞が活性化されて、記憶力を補助してくれることを期待しているのです。患者さんに合言葉や日付を尋ねて答えてもらうことは、私のような医者でなくてもできます。特別な技術も道具も要りませんし、医療行為でもありません。

認知症は家族で立ち向かう病気

認知症は、本人だけではなく、家族が協力して立ち向かうべき病気とされています。夫の認知機能が落ちたら妻が、妻の認知機能が落ちたら夫が、私と同じように簡単な会話で思い出し作業を続けて、毎日脳を刺激してあげるといいです。

もちろん、他の家族の方がサポートしてあげてもいいでしょう。1日1分でも3分でもいいのです。続けることが大事ですから、無理せず続けられそうなことから始めてみてください。

老夫婦が同時に認知症になるケースもなくはないでしょうが、大半はどちらかが先に認知機能の低下を引き起こします。1人暮らしではなく、夫婦で暮らしている場合、どちらかがサポート役を買って出ることで、認知症の進行を遅らせることはできます。

※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。(文・監修/松原英多)