マスク氏のツイッター再生、失敗しそうな訳サンフランシスコにあるツイッター本社
PHOTO: LAURA MORTON FOR THE WALL STREET JOURNAL

――筆者のクリストファー・ミムズはWSJハイテク担当コラムニスト

***

 起業家イーロン・マスク氏は米ツイッターをスタートアップ企業のように扱っている。スタートアップ企業の問題点は、その大半が失敗に終わることだ。

 マスク氏はIT(情報技術)スタートアップ企業にありがちなやり方で、ツイッターに非常に多くの変更を急ピッチで導入したか、もしくは導入すると約束した。会社がまだ小さく、投資家の資金を燃焼し続けている場合、これは大いに理にかなっている。このお決まりの戦術にマスク氏ほど精通したIT業界の経営者はほとんどいない。自らが指揮したり、創業に関わったりした企業(宇宙開発ベンチャーのスペースXや電気自動車大手テスラ、電子決済サービスのペイパルなど)の時価総額の合計でマスク氏は他の起業家の追随を許さないほどだ。

 だがツイッターはスタートアップ企業ではない。マスク氏があまりにも迅速に動き、あまりにも多くのものを一度に破壊すれば、浪費される可能性がある多くのものを持つ成熟した企業だ。ツイッターは4日に大幅な人員削減を発表した後も数千人規模の従業員を抱える。また大量のコードを持ち、それが将来的に技術的負債になる可能性がある。年間売上高は約50億ドル(約7300億円)で、同社のサービスに揺るぎない意見を持つ2億4000万人近いデイリーアクティブユーザー(DAU)を擁する。さらに、諸経費に加え、マスク氏が買収資金の一部とした借入金のために年間10億ドルを超える債務返済の必要がある点もスタートアップ企業とは異なる。

 ツイッターはすでに存続の危機にひんしている。マスク氏は4日、同社が「収入の大幅減」に見舞われているとツイート。同氏が次に何をするか、それが自分たちにどう跳ね返るかを警戒し、企業がツイッターへの広告出稿を一時停止したためだという。

 今までマスク氏は多くの人が不可能と考えることを成し遂げてきたが、ツイッターは同氏が過去に手がけたのとは全く異なる種類のチャレンジだ。よく褒めそやされるマスク氏の「第一原理」思考は、新しい物理的製品を生み出すのにはうってつけだ。だが同氏が示したのは、ソーシャルネットワークの運営に必要となる極めて巧妙な交渉術の才能とは真逆のものだ。ソーシャルネットワークではリーダーが、規制当局や政治家はもちろん、広告主やユーザーのニーズや要望のバランスを取る必要がある。その傍ら、いかなるコンテンツが許容され、もしくは許容されないかに関して編集上の決断とみなされるものを監督しなければならない。